唾液の異常感

唾液に関する訴え Somatoform salivary complaints. Case reports.
January 30, 2002
Timothy J. Votta, B.S.; Louis Mandel, D.D.S.
 
N Y State Dent J. 2002 Jan;68(1):22-6.の要約です。

4つの精神心理的要因

身体表現性障害患者の多くの苦しみは、しばしば患者自身のこの疾患に対する態度によって、より悪化する。 患者はごく普通のささいな問題を、重大な障害の徴候であると拡大解釈することによって、身体表現性障害を永続させる悪循環に巻き込まれる。ささいな問題を、重大な障害と拡大解釈することを助長する、4つの主要な精神心理的な要因がある。

第一に、この疾患の患者は、自分の症状に対して非常に著しく精神を集中させるようになる。第二に、患者の多くが背景に悲観的な考え方をする。つまり、「何をしようとも、この病気は悪くなる一方である」という感覚を持っている。第三に、患者の(身体化した)愁訴はマスコミにセンセーショナルに報道されたことがあるものが多く、マスコミはしばしば患者たちに、医者の専門的知識が疑わしいかもしれないという信念を教え込んでいる。

第四に、犠牲の文化が患者に「病気の役割」にとどまらせることがある。これは患者に自分は被害を受けており、問題を解くべき唯一の方法は告訴を通して苦痛の補償を求めることである思わせるようになる。

以上の要因のすべてがそろった時、その症状は患者に対し圧倒的な力をもつようになる。そして恐怖とさらなるストレスと悲観を加え、患者の障害を長引かせる原因となる。

説明不能な症状

コロンビア大学 唾液腺 センター (Columbia University Salivary Gland Center) ( SGC )には、しばしば唾液(腺)疾患様の症状を訴える身体表現性障害患者が受診する。 実際の唾液(腺)疾患は、非常に限局した部位に生じるが、これらの患者の場合、全身にさまざまな症状を訴えることが多い。

患者の多くには、抑うつ的な徴候が認められる。うつは常時、一般人口の2-4%にみられるし、最近の研究ではうつの患者のおよそ50%が多くの身体化症状を訴えたことを報告している。

発症のきっかけ

抑うつ的な精神状態は、はしばしば口腔の身体表現性障害の温床となりうる。次に、(歯科治療のような)口腔内の変化をおこすようなことがきっかけとなり、患者を敏感にし口腔内の感覚に固執させるようになる。

注射、抜歯、スケーリング、充填や口腔内レントゲン写真をとることさえ、この疾患の発症のきっかけとなりうる。

基本的に、口腔内に生じたどんな変化(事件)でも、(歯ブラシによる傷や熱いピザをかんだなどということも含む)えも、素因をもつ患者では somatization を誘発する。患者が生じた変化に非常に気を取られると、身体表現性障害が生まれる。

これらの患者はしばしば 身体表現性障害を示唆する他のさまざまな症状を訴える。たとえば、原因を特定できないことが多い顎関節症やブラキシズムによる咬筋肥大などである。また、味覚異常や口腔の灼熱感、種々の奇異な唾液に関する不定愁訴を訴えることもある。

唾液に関する訴え

粘稠性に関する訴え
唾液が、特に口蓋や口の片側で、非常に濃いあるいはねっとりしていると執拗に訴える患者がいる。唾液に泡が多いという訴えもあるが、これは活発に話せば(アクティブな舌運動)必然的に生じる現象であり、異常ではない。
非常に専門的な勉強をして、専門書や医学論文を携えて受診する患者もいる。

唾液の量に関する訴え
口腔乾燥:抗うつ薬による治療のため口腔乾燥を訴える患者の場合で、薬物療法を中止して、唾液の流量が正常に戻った後さえ、口腔乾燥 について不平を言い続ける。 薬物療法によって誘発された 口腔乾燥 は患者の意識を口腔内に固執させる契機となってしまったのである。

唾液分泌過多:
正常な量の唾液であるが、本人は唾液分泌過多を訴え、たえず唾液を吐き出している。

味覚不全・異常( dysgeusia
身体表現性障害で味覚不全・異常を訴える患者も多い。味覚不全・異常は、ある種の薬物(内分泌、呼吸器、胃腸、神経学的疾患のための薬物あるいは 亜鉛欠乏)によって生じることもあるが、一般に、患者にそれらの病歴・薬物歴が見当たらない場合には、身体表現性障害による味覚不全・異常と診断する。

口腔の灼熱感
口腔の灼熱感を訴える患者もいる。真菌感染、糖尿病、ビタミン欠乏症、貧血、地図状舌や扁平苔癬などが除外される場合には、身体表現性障害であると診断する。

症例1
78歳、女性。
病脳期間、2年。
主訴:唾液が濃く、塩辛い。
唾液は右上顎大臼歯部から生じているように思われる
契機:患者は根管治療がきっかけで生じたと主張している。
器質的異常なし。身体表現性障害と診断される。

症例2
83歳、女性。
病脳期間、3年。
主訴:唾液分泌過多。口中の悪味と灼熱感。
唾液が流れ落ちているという錯覚のためにたえず唇をぬぐっている。
契機:5-6本のインプラント埋入後生じた
唾液量、成分などすべて正常範囲内。
また嚥下障害を生じるような疾患(多発性硬化症、パーキンソン病)は存在していない。

症例3
51歳、女性。
病脳期間:1年
主訴:口臭、右側に限局した口中の悪味
(口臭や味は右頬部から染み出ていると主張)
契機:なし
身体的異常なし

結論
歯科医は、かなりの数の、生物医学的根拠がない愁訴を訴える患者を診察している。このようなケースに遭遇した際に、臨床家その特徴から身体表現性障害を診断できなくてはならない。身体表現性障害を考慮すべき3つの徴候は、抑うつ的な精神状態、契機となる歯科治療体験がある、奇妙な訴え、である。本論文ではこれらのケースレポートを供覧した。