非定型歯痛・顔面痛

原因不明の歯痛・顔面痛 はっきりした原因が認められないにもかかわらず、年単位で持続する歯痛や顔面痛にお悩みの方は、このページをお読みください。

<非定型歯痛の特徴>

非定型歯痛(atypical odontalgia:AO)は、「レントゲンなどでは明らかな異常が認められない“原因不明の歯痛”で、抜髄(歯の神経を抜くこと)や根の治療を何ヶ月も続けているのに、いっこうに痛みが引かない」という病気です。その痛みは「じんじん、じわじわ」と表現されることが多く、目が覚めている間中持続します。しかしながら、何かに気を取られている時(特に食事中)は痛みがないという特徴があります。そのため、食事に支障はなく、体重が減ってしまうようなことはありません

  • 歯またはその近くの歯肉、または抜歯した後の部位に生じる痛みで、臨床的にもレントゲンでも全く異常は認められない。
  • 痛みの強さは、中等度から激痛で、じんじん・じわじわする痛みが、ほぼ一日中途切れることなく、数ヶ月から数年にわたって続いている
  • 冷温水痛、負荷などの局所刺激に対する反応は一貫しておらず、これらが常に疼痛を増悪させるとは限らない
  • 9割が女性。平均発症年齢55
  • 歯科治療は無効、むしろ繰り返すごとに悪化する:非定型歯痛は、虫歯の痛みと非常によく似た症状を示すうえ、患者さんの苦痛も大きく、患者さんから、「もう抜いてくれ」と迫られたりして、歯科医は原因が特定できないまま、なんらかの処置をせざるをえない状況に追い込まれます。しかし、歯には原因がないため歯科治療や手術をしても効果はありません。むしろ、治療を行えば行うほど状態が悪化する傾向があります
  • 痛み止めやブロック注射は無効。 
  •  一本の歯に生じるもの、多数歯に同時に生じるもの、顔面に広がるものなどさまざまです。
  •  ストレスで脳の痛み関連領域が暴走しているだけですので、危険な病気ではありません。
  •  治療は薬物療法と認知療法を併用して行います。

非定型歯痛(AO)の一般的経過

「きっけがあるもの(7割)」と「ないもの」がありますが、「きっかけがあるもの」の多くは背景に慢性的なストレスがある方が歯科治療をうけたときに発症しています。

・・・ある日突然、あるいはささいな歯科治療をきっかけに、歯髄疾患のようにみえる「歯痛」が始まる。歯には異常が認められないため、最初は経過観察とするが、患者が疼痛を訴えて繰り返し受診するうちに、抜髄せざるを得ない状況に追い込まれる。しかし、抜髄をしても疼痛は消失しないため、そこから長期間の根治へ移行するが、やはり疼痛は改善せず、最終的には患者に懇願されて抜歯となってしまうことが多い。しかしながら抜歯をしても疼痛はその部に存在し続けるため、口腔外科依頼となる。口腔外科では、明らかな異常が認められないまま、疼痛をコントロール使用として、慢性上顎洞炎や慢性骨髄炎の診断で上顎洞根本術、骨髄生検、骨髄掻爬などが行われてしまうことが少なくない。しかし、外科処置も疼痛を改善させはしない。このため、神経因性疼痛(ニューロパシックペイン)として、星状神経節ブロックやドラッグチャレンジなどが行われることも多いが、AOであれば星状神経節ブロックはほぼ無効である。また、これらの一連の経過中に、疼痛部位が他の歯に飛び火したり、顔面に拡大したりすることもある。・・・

原因(病態生理)

原因(病態生理)は、脳の痛み関連領域が暴走していることと推測されています。したがって末梢への治療(歯科治療や痛み止め)が効果がありません。

治療

1)薬物療法:抗うつ薬、三環系抗うつ薬(特にアミトリプチリン、ノルトリプチリン)やSNRIが第一選択です。

2)認知療法:また痛みのことを考え続けることによって、脳の痛み関連領域の暴走が悪化しますので、痛みから注意をそらせる「認知療法」を行うことが重要です。→「慢性疼痛患者の心得」をお読みください。

参考 非定型歯痛・顔面痛患者さん説明用スライド (pdf  1.7M)

 

*(註)抗うつ薬には下降性疼痛抑制系を賦活するなどの作用があり、AOのみならず慢性疼痛の治療薬として広く認識されている。欧米では顎関節症でも疼痛が慢性化したものには抗うつ薬を処方することが一般化している。