歯科治療、特にインプラント治療後に、治療の成否とは別に、急速に体調を崩す患者がいます。
口腔内に激しい痛みや違和感が発現して、全く食事がとれなくなったり、寝たきりになってしまうことさえあります。しかもこのことは稀ではありません。身体的な原因はないので、患者さんの多くは、精神科や心療内科を経由して、口腔顔面痛外来を受診します。
この原不明の痛みや体調の悪化は、歯科治療中の不安や恐怖が引き金となって、中枢の痛み情報の処理のし方が変わり、脳の痛み関連領域(ペインマトリックス)が過剰に興奮・暴走した状態だと考えられています。論文の中で、「痛みのスイッチが切れなくなった状態」と表現している脳科学者もいます。
いったんこの状態に陥ると、歯科治療は逆効果になります。歯科治療は保留にしてください。
治療は、脳の興奮を抑えるため、薬物療法と認知療法(痛みから注意をそらせる)を同時に行います。
診断は、痛みの専門家であれば「中枢機能障害性疼痛」とし、精神科医であれば「疼痛性障害」(身体症状症・身体表現性障害)とするでしょうが、いずれも意味(メカニズム)は同じです・
①インプラント治療後、突然、不定愁訴を訴え始めた患者にどう対応するか/上―身体表現性障害論―.井川雅子,山田和男.Quintessence DENT Implantol 2004;11(1):53-60.
②インプラント治療後、突然、不定愁訴を訴え始めた患者にどう対応するか/上―身体化症状を起こす精神疾患の具体例―.井川雅子,山田和男.Quintessence DENT Implantol2004;11(2):35-43.