三叉神経痛

 

「発作性」神経痛は、瞬間的な、電撃様の痛みを特徴とする神経痛で、三叉神経痛や舌咽神経痛に代表されます。

発作性神経痛の特徴

痛みの性状: 電撃様疼痛(鋭い、切り裂くような、電気が走るような、針で刺されるような痛み)
強度: VAS100/100 (最強・最悪の痛み)
持続時間: 数秒
・ 発作と発作の間には、全く痛みがない
*特発性と症候性の場合がある。(必ず、画像で、中枢性の原因を除外すること)


三叉神経痛 Trigeminal Neuralgia(TGN)
前三叉神経痛(Pre-trigeminal neuralgia)
舌咽神経痛 Glossopharyngeal Neuralgia (GPN)
発作性神経痛の薬物療法 Medical Management of TN
三叉神経痛の薬物療法
外科的療法 Surgical Management of TN
三叉神経痛の外科療法(術式・効果・コメント)


三叉神経痛 Trigeminal Neuralgia(TGN)

疾患概念
瞬間的な電撃様疼痛が、三叉神経枝の支配領域の1つまたはそれ以上の部位に限って生じることを特徴とする、片側性疾患です。通常、洗顔、髭剃り、喫煙、会話または歯磨きなどの些細な刺激により誘発されますが、自発性に発現することもあります。トリガーゾーンは鼻唇溝またはオトガイ(あるいはその両方)の狭い領域に、集中しています。
痛みの部位:三叉神経の第2・3枝に好発。
痛みの性状:教科書的には「電撃様疼痛」と表記されますが、患者の表現で多いのは、「ツーンと“しみる”」「びりっとする」「ズキズキーっとする」「かみそりでシュッと切られたような」「針(きり)でぐさっと刺されたような」などです。
痛みの強度:「人類最強(最悪)の痛み the most excruciating pain to afflict the human race」と言われています。
持続時間:疼痛は発作性で、数秒間生じ、発作と発作の間は全く痛みがありません。「瞬間的な激痛」というのが最大のポイントで、歯髄炎との鑑別は困難ではありません。
発症頻度:人口100万に対し、男性107.5人、女性200.2人
年齢:基本的に50代以上で生じます。若年者で生じている場合には、必ず中枢のMRI/CTを撮影して症候性の物を鑑別する必要があります。

ICHD-II 診断基準
13.1.1 典型的三叉神経痛
A. 三叉神経分枝の支配領域の1つまたはそれ以上の部位の発作性の痛みが数分の1秒~2分間持続し、かつBおよびCを満たす
B. 痛みは以下の特徴のうち少なくとも1項目を有する
1. 激痛、鋭い痛み、表在痛または刺痛
2. トリガー域から発生するか、またはトリガー因子により発生する
C. 発作は個々の患者で定型化する
D. 臨床的に明白な神経障害は存在しない
E. その他の疾患によらない


前三叉神経痛(Pre-trigeminal neuralgi.)

・ 三叉神経痛は、最初から三叉神経痛の診断基準を満たす典型的な形で発現するものもあるが、不完全な形で発症し、徐々に進行して典型的な三叉神経痛の症状を備えていくものもある。
・ 三叉神経痛の発症に先立ち、持続性の鈍痛や、痛みの弱い疼痛が発作性に発現することがある。これらの痛みは歯痛のように感じられることが多いが、時間の経過と共に、「瞬間的な電撃様疼痛」というはっきりした三叉神経痛の特徴を備えるようになる。
・ このように、三叉神経痛の前駆的な形態は「前三叉神経痛」と呼称されている。

Pre-trigeminal neuralgiaに関する主な論文
・ 1949年 Sir Charles Symondsが、三叉神経痛が発症する前に、上下顎に持続性の鈍痛が生じる患者がいることを報告した。(Symonds C. Facial Pain. Ann R Coll Surg Engl 1949; 4: 206-212)

1980年 Mitchellがこれを、pre-trigeminal neuralgiaと命名。(Mitchell PG. Pre- trigeminal neuralgia. Br Dent J 1980; 149: 167-170)→要約B

・ 同様なケースが舌咽神経痛でも存在するという報告がなされた。(Rusthon JG, Stevens C, Miller RH. Glossopharyngeal (vagoglossopharyngeal) neuralgia: a study of 217 cases. Arch Neurol 1981; 38: 201-205)

・ 1990年 Pre-trigeminal neuralgia. Fromm GH, Graff-Radford SB, Terrence CF, Sweet WH.→要約C

・ Trigeminal neuralgia: how to rule out the wrong treatment.
Merrill RL, Graff-Radford SB., J Am Dent Assoc. 1992 Feb;123(2):63-8.

・ 2005年 Expert opinion:Pre-trigeminal neuralgia Evans RW, Graff-Radford SB, Bassiur JP.→要約A(もっともコンパクトに要点がまとまっています。ここから読んでください。)

要約A
Expert opinion:pre-trigeminal neuralgia
Evans RW, Graff-Radford SB, Bassiur JP. Headache. 2005 Mar;45(3):242-4.

症例提供 Randolph W. Evans, MD
Expert opinion by Steven B Graff-Radford, DDS; Jennifer P. Bassiur DDS


症例
82歳女性。10日前から顔面痛が発現。
左の額と頬部に、数秒間持続する激しい電撃様疼痛が繰り返し発現している。疼痛は、指や枕が触れたり、洗面、額や眉にしわを寄せることで誘発される。
3年前にも2日間、同部に同様の痛みが発現したことがあったが、その後は症状がなかった。
2ヵ月半前に、VAS 5/10の歯痛様の「不快な痛み」が右上顎歯から頬部にかけて、持続性に生じていた。疼痛は睡眠を障害しない。トリガーもなし。
歯科を受診して、右上3の歯髄が壊死しかけているとの診断で、抜髄をしたが、疼痛に改善は認められなかった。MRIを含む神経学的検査では異常なし。
カルバマゼピン400mg(分2)で、24時間以内に疼痛が消失。

質問
この持続性疼痛は、三叉神経痛と関連があるのか?

Expert opinion
(略)
Symondsが、典型的な三叉神経痛が生じる前段階に、上顎または下顎の持続性の鈍痛が生じる患者がいることを報告した。Mitchellはこれを、pre-trigeminal neuralgiaと命名した。pre-trigeminal neuralgiaの疼痛は、軽度から中等度、鈍痛・灼熱性・拍動性で、歯肉や歯の痛みとして感じられる。疼痛が歯牙に限局する場合は、歯原性疼痛との鑑別が必要である。
pre-trigeminal neuralgiaは、症状が非典型的であるために、典型的になるまで診断がつかないことがある。しかしながら、説明不能な鈍痛・灼熱性疼痛が繰り返し生じたり、非侵害性の刺激で疼痛が誘発される場合は、pre-trigeminal neuralgiaを考慮する必要がある。この病態が存在することを知っていれば、最短距離で適切な治療を選択することができる。また、不必要な非可逆的な治療を避けることもできる。
pre-trigeminal neuralgiaは三叉神経痛と病態生理は同じであるため、同様な薬(抗てんかん薬)が奏効する。

FrommとGraff-Radfordは、pre-trigeminal neuralgiaから三叉神経痛へ進行するまでには数週から数年かかると記述している。患者の年齢は22-81歳で、平均56.2歳である。
pre-trigeminal neuralgiaは2つに大別され、一つは最初からカルバマゼピンに反応するもので、もう一つは三叉神経痛になってからカルバマゼピンに反応したものである。

供覧された症例は、pre-trigeminal neuralgiaから三叉神経痛へ移行した症例である。本症例の患者は、電撃様の疼痛を訴えているが、それに先だつ2ヶ月半の間は、歯痛様の不快感を訴えている。この前駆疼痛はpre-trigeminal neuralgiaの提唱されているクライテリアと一致する。また、カルバマゼピンで疼痛が消失したことからも、三叉神経痛との関連が示唆される。

臨床家は、三叉神経領域の疼痛を診察する際には、この稀ではあるが治療可能なpre-trigeminal neuralgiaという病態が存在することを知っている必要がある。

要約B
Pre- trigeminal neuralgia.
Mitchell PG. Br Dent J 1980; 149: 167-170)

三叉神経痛の特徴
1) 発作性
2) 皮膚や粘膜への刺激で誘発される
3) 三叉神経の枝にそって生じる
4) 正中を越えない
5) 原因となる器質的疾患がない

対象:三叉神経痛の発症に先立って、上記の条件を満たす疼痛の既往があった患者38名。
35-78歳で、平均56.9歳(三叉神経痛のグループより高い)。男女比は、13:25(ほぼ1:2)と女性に多く、左右差はない。

疼痛の性状
鈍痛(dull and aching)25名
灼熱性 8名
鈍痛+灼熱性 1名
歯肉のうずくような痛み 2名
針で刺されるような痛み 2名

病悩期間
・15名の患者は、2週間から5か月持続し、そのまま三叉神経痛へと移行した。その変化は、何日の何時と言えるほど、「突然の変化」として記憶に残っている。

・ 残りの23名の患者は、pre-trigeminal painが、2週間から5か月間持続した後に、いったん消失し、その後寛解期が4週~18か月持続した。
l 疼痛再発時には、23名中16名は、再発時には三叉神経痛になった。残りの7名は、三叉神経痛になるまでに、2-4回のpre-trigeminal painの寛解と再発を繰り返した。

・疼痛強度:中等度~強度(患者に医療機関の受診を決意させるほどの強度)

pre-trigeminal painと歯牙の状態
痛みをコントロールしようとして、抜歯されていたケースがあったが、いずれの場合も、疼痛改善をもたらさなかった。一般的に患者は、抜歯後に疼痛が改善したというが、1-2日以上は続かず再発する。3例では、抜歯により疼痛悪化が認められた。
1-2日疼痛改善は、三叉神経痛のブロックと同様、抜歯時の局所麻酔の効果によるものであったと思われる。


症例(pre-trigeminal painの典型例)
以下の症例は、である。
1968年12月16日初診
72歳女性。
主訴は左下顎の疼痛。
初発は1967年夏で、1回1時間持続する強度ではない鈍痛が、1日に数回発現し、2ヶ月間持続し、突然消失した。
1968年11月1日再発。疼痛は穿刺性で、中等度、夜間に悪化した。
11月25日 左下234を抜歯。24時間は疼痛が消失したが、その後さらに増悪して再発。
11月27日 左下5,8を同様に抜歯。疼痛改善はなく、増悪した状態が1週間続いた。
その後疼痛はもとのレベルまで下がり、穿刺性の発作性疼痛が5分に数回生じる状態が持続した。疼痛は夜間に悪化し、トリガーゾーン(下口唇の内側)が生じた。発作の間は、左下顎歯肉に軽度の痛みがあった(患者は、左下小臼歯部を示した。)

考察
三叉神経痛発症に先立って、pre-trigeminal neuralgiaという病態がある。この病態は、冒頭の5つの条件を満たすが、疼痛強度は軽度から中等度である。「pre」は、三叉神経痛の初期(early)と区別するために用いた用語である。

pre-trigeminal painは、持続性で、発作性ではなく、皮膚には生じない。過去の論文に共通しているのは、その部を動かすことで疼痛は誘発されるが、トリガーゾーンが存在するとは限らない。

Cohenは「三叉神経痛を早期に診断する必要があるのは、不必要な歯科治療を避けるためである。(多くの症例で、数歯から多数歯の抜歯が行われているという現状がある。)」と述べている。ましてや、さらに診断が困難なpre-trigeminal phaseの場合には、そのような治療が行われてしまいやすい。

要約C
Pre-trigeminal neuralgia.
Fromm GH, Graff-Radford SB, Terrence CF, Sweet WH.
Neurology. 1990 Oct;40(10):1493-5

方法
1)典型的な三叉神経痛患者で、発症前に異なるタイプの痛みを経験した患者18名。
(診断は、診断基準とCTまたはMRIでおこなった。)
2)以下のpre-trigeminal neuralgiaのクライテリアを満たした6名。
・表1に示したような前駆症状(疼痛)
・ 神経学的・歯科的に異常なし
・ 頭部のCTやMRIで異常なし
・ カルバマゼピンかバクロフェンで疼痛が消失

結果
表1
18名の患者は、この前駆疼痛を「歯痛」または「上顎洞炎」のような疼痛と表現した。
8名は、咀嚼、熱い・冷たい飲み物、歯磨き、あくびや会話で疼痛が誘発された。
典型的な三叉神経痛になるまでに、数ヶ月から12年かかっている
12名で、preがそのまま三叉神経痛に移行している。一方、6名は、1-11ヵ月の寛解期を挟んで三叉神経痛になっている。
Preの発症年齢は、22-81歳(平均56.2歳)。男女比は7名:11名。
(三叉神経痛は平均52.9歳)

表1 pre-trigeminal neuralgia期間を経験した三叉神経痛患者

患者 年齢 性別 PTN期間 疼痛の性状 疼痛部位

1

68

F

6M

歯痛 左3枝

2

76

M

14M

鈍痛 左3枝

3

30

F

16M

じんじん・きりきり 左1.2枝

4

72

M

6M

鈍い拍動性の歯痛 右3枝

5

82

M

3M

鈍痛 右1・2枝

6

67

F

2Y

鈍痛と鋭痛 右2.3枝

7

67

M

2Y

鈍痛 右3枝

8

58

M

10Y

鈍痛 左3枝

9

53

M

4Y

深部鈍痛 左3枝

10

34

F

12Y

 歯痛+鋭痛 左2枝

11

57

M

5Y

鈍痛 右3枝

12

52

F

7M

歯痛 右3枝

13

55

F

 3M

持続性の上顎歯痛 右2枝

14

65

F

3Y

 鈍痛 右1.2枝

15

67

F

2Y

絶え間ない激痛 左3枝

16

42

F

4Y

鈍痛 左3枝

17

43

F

9M

灼熱性疼痛 右1枝

18

25

F

3M

鈍い歯痛 右2枝

 

表2
6名の患者は、典型的な三叉神経痛ではないが、表1の前駆疼痛と同様な疼痛を訴えている。この疼痛はカルバマゼピンかバクロフェンで消失し、他の原因は見あたらない。
疼痛のonsetは37-71歳で、平均52.9歳。男女比は、2:4。左右差はない。

表2  現在経過観察中のpre-trigeminal neuralgia患者

 

患者 年齢 性別 PTN期間 疼痛の性状 疼痛部位
19  38 M 1Y 鈍い歯痛 左3枝
20 63 F 20Y 鋭痛 右2.3枝
21 43 F 6Y 鋭痛・灼熱性 右2.3枝
22 60 M 5Y 灼熱性 右2枝
23 69 F 1Y 鈍痛 左2枝
24 81 F 10Y 持続性鈍痛 左2枝

症例1(患者1)
68歳女性。6ヵ月前から、左下顎部に歯痛様の疼痛が生じている。疼痛は数分間持続し、歯磨きや食事、会話で誘発される。疼痛の頻度と強度が徐々に増強したため、歯科を受診した。異常は見つからなかったため、主治医は患者を歯内療法専門医に依頼した。疼痛は「brightはっきりした、pricking刺すような、steady持続性の痛み」で、下口唇への接触や、顎や舌の動きで誘発された。左頸部に腫瘤があり、vagal body tumorと判明した。
1987年4月1日、切除。
術後1ヶ月は疼痛が消失していたが、5月14日、突然左下顎に激しい穿刺痛が発現。疼痛は、会話、食事、歯磨きで誘発される。食事により疼痛が誘発されるため、14lbs体重が減少。Neurologicalな異常はなく、最終的に、カルバマゼピンで疼痛消失。


 

症例2(患者10)
34歳、女性。1968-69年の1年間、咀嚼やあくび時に、左頬に数分から数時間持続する鈍痛が発現。TMJの可能性があるとして、咬合調整が行われたが、疼痛には改善は認められなかった。次に3年間の心理療法が行われたが無効。1982年、スプリント治療を行い7-8ヵ月は疼痛消失したが、その後再発。1985年9月、左TMJの関節形成術。術後、左顔面の麻痺と感覚鈍麻を後遺。
1986年8月より、flinchingと頭部を急に動かした際に、左目と頬に電撃様疼痛が発現。左頬と前頭部に灼熱性の刺すような疼痛も発現。
1986年12月、カルバマゼピンを処方され、1000mgで疼痛消失。(後にバクロフェンも追加)。副作用でカルバマゼピンを600mgまで減量したところ、ときどき電撃様疼痛の発作と持続性の疼痛が発現した。
神経学的な異常は認められない。


症例3(患者20)
63歳女性。20年前から右顔面に疼痛発作が生じていた。疼痛発作は、上下の歯肉から始まり、拡大して右顔面全体、目や耳に広がって12時間持続する。
神経学的な異常は認められない。
発症から12年目でカルバマゼピンを開始したところ、完全な疼痛緩和が得られた。カルバマゼピンは1年で中止したが、その後2年間は疼痛がなかった。
その後再発したが、カルバマゼピンで疼痛消失。
2年後の再発では、カルバマゼピン900mg(分3)+フェニトインの追加で疼痛がコントロールできた。
トリガーなしでの発作発現、疼痛部位の拡大、アルコールで誘発されることなどから、群発頭痛の疑いもあったが、われわれはpre-trigeminal neuralgiaも考えた。(三叉神経痛と群発頭痛の関係については、多くの文献がある。)

結果
三叉神経痛18名の患者のうち6名で、PTN6名中1名で初発症状は歯痛であった。

考察
三叉神経痛に関しては、FothergillやPujolなどによって、「片顎全部の無意味で不必要な抜歯」を避けるために、歯科疾患による疼痛との鑑別の重要性が強調されてきた。
しかし、長期間の持続性の鈍痛と穿刺痛が同時に存在するような非定型的な患者の場合には、鑑別診断は容易ではなかった。特に、三叉神経痛が非定型的な形で始まった患者の場合は、鑑別は極めて困難であった。
(略)
典型的な三叉神経痛になる前に、上下顎に持続性の鈍痛が生じる患者がいる。このpre-trigeminal neuralgiaという状態を認識することで、適切な薬物療法で疼痛を改善させたり、不必要でしばしば破壊的な歯科治療を避けることができるようになる。

われわれの観察では、歯科治療後に生じたようにみえる三叉神経痛というのは、じっさいにはpre-trigeminal neuralgiaの状態で歯科を受診した患者が、誤診により歯科治療を受けた後に、典型的な三叉神経痛を発症したものである可能性が示唆される。


舌咽神経痛 Glossopharyngeal Neuralgia (GPN)

疾患概念:
舌後方1/3や咽頭部の感覚を司る舌咽神経(第IX脳神経痛)に生じる発作性神経痛で、疼痛の性状や強度は、基本的に三叉神経痛と同じです。歯科では、「大開口時痛」が主訴になることが多く、臨床像はTMDに酷似しており、「顎関節症」と誤診しやすいので注意が必要です。

疼痛部位と患者の主訴
舌咽神経は、舌後方1/3、耳(鼓膜に分布)、下顎角、咽頭部に分布しているため、発作時には患者は「顎関節が痛い」と自覚します。また疼痛発作は、あくび、嚥下などの顎運動によって誘発されるため、患者は「大きく口を開けると痛い」と訴えます。食べ物の味刺激や冷水で食事時に疼痛発作が生じることが多いため、「食事をすると顎が痛い」とも訴えます。
発症頻度:三叉神経痛の1/50~1/100と推定されており、比較的稀な疾患です。

ICHD-II 診断基準
13.2.1 典型的舌咽神経痛
A. 数分の1秒~2分間にわたり持続する発作性の顔面痛で、BおよびCを満たす
B. 痛みは次の特徴をすべて有する
1. 片側性
2. 舌後部、扁桃窩、咽頭または下顎角直下の領域または耳のいずれか1つ以上に分布する
3. 鋭く、刺すような痛みで激烈
4. 嚥下、咀嚼、会話、咳または あくび のいずれか1つ以上により発生する
C. 発作は個々の患者で定型化する
D. 臨床的に明白な神経障害は存在しない
E. その他の疾患によらない


 発作性神経痛の薬物療法 Medical Management of TN

・薬物療法はTNの30%で奏効せず。以下括弧内は商品名
・カルバマゼピン 以下CBZ (テグレトール)
○抗てんかん薬(構造はTCAと類似)
○発作性神経痛のfirst-line drug(70%に有効)
○RCT(+)有効性が証明されている
○Na channelをブロックすることにより細胞膜の安定化を計り(membrane stabilizer)、
○神経細胞の異所性活動を抑制し、
○自発性の疼痛を軽減する。
○半減期は24-36時間、peak effectは8時間。
○長期連用では酵素誘導のため半減期が短くなることがある
・バクロフェン(ギャパロン、リオレサールなど)筋弛緩剤:
○Controled Trial(+)
○GABA agonist
○CBZの代用品として用いられる。
○フェニトインよりは効果的
○1回5-10mgを1日3回で、最高80mgまで
○急に中止すると、幻覚・不安・頻脈が出る
○CBZやフェニトインと相乗効果(additive effect)がある
○本邦ではあまり知られていないが、欧米ではよくCBZとかませて使われる
・フェニトイン(アレビアチンなど)抗てんかん薬
○CBZが開発される以前の薬
○RCT/CT (-)
○CBZほどの効果はなくsecond-line drug
○機序はCBZと同様、membrane stabilizer
・ギャバペンティン(ニューロンチン) 本邦未発売
○GABA agonistというわけではなく機序は不明
○米国ではfirst-line drug としてTN患者のほとんどに処方されているがRCT(-)
○副作用のあるCBZに代わって、発作性神経痛のfirst-line drugになりつつある
○しかし、臨床家の評判は、「CBZほどシャープな効果ではない」と
・クロナゼパム(リボトリール・ランドセンなど)抗てんかん薬
○RCT(-)
○GABA agonist(抗てんかん作用を持つベンゾジアゼピン)
○CBZにかませて使うことが多い
・バルプロ酸ナトリウム(デパケンなど)
○GABA activityをincreaseする
○RCT(-)
○CBZ, フェニトイン, バクロフェンが無効の時のSecond-line drug
・ラモトリジン(ラミクタール) 本邦未発売 新しい抗てんかん薬
○NaとCa channelをブロックして興奮性アミノ酸の放出を抑制する
○RCT(+)、
○CBZほど効果的ではなくSecond-line drug
・メキシレチン(キシロカインの内服版)
○膜安定作用、Na channel blocker、抗不整脈
・ピモザイド(日本語表記ではピモジド)(オーラップ)
○RCT(+)
○CBZより効果が高いが、48例中40例に強い副作用があり臨床的ではない
○本邦では統合失調症(精神分裂病)の薬として知られている


三叉神経痛の薬物療法

商品名 量(mg/day) 効果%
of patients
血中濃度(ug/ml) 一般名
リオレサール 40-80 50

バクロフェン
テグレトール 200-800 70-80 3-10 カルバマゼピン
アレビアチン 200-300 10-30 10-20 フェニトイン
デパケン 400-1200 45 40-100 バルプロ酸
リボトリール 2-6 65 0.02-0.08 クロナゼパム
エクセグラン 100-600 100 10-30 ゾニサミド
オラップ(米国) 2-12 ? ピモザイド
ニューロンチン(米国) 900-2700 ? ギャバペンティン

外科的療法 Surgical Management of TN

・TNの30%は薬物療法が奏効しない
・なお外科療法では、三叉神経痛に適応できる術式がすべて舌咽神経痛にも適応できるというわけではないので 注意が必要。
・ブロックや高周波神経根切断術は、解剖学的理由で、 通常舌咽神経痛には適応できないと考えられている。
 Rhizotomy(神経根切断術
○1~2年で再発
○鎮静下で放射線透視下で卵円孔に針を位置させ feed backを得ながら
選択的に神経線維を破壊する
 1)Alcohol block(三叉神経末梢枝でのアルコールブロック)
フェノールまたはアルコールを問題の三叉神経枝に注入する
 2)Alcohol gangliolysis(三叉神経節のアルコールブロック)
アルコールをガッセル神経節内に注入する
 3)高周波神経根切断術
radiofrequency rhizotomy (radiofrequency thermocoaglation)
再発率27%
most widely used surgical procedure for TN
特殊な電極を直接神経根に差し込み、高周波による熱でAδとC-fiber を選択的に熱凝固させる。(有髄の太い神経線維は保存される)
触覚も低下させてしまう
4)グリセロール神経根切断術glycerol rhizotomy
再発率 2年以内(20%) 5-10年以内(40%)
純粋なグリセリンをMeckle’s caveに注入する
長所は、顔の知覚にほとんど影響を及ぼさないこと
再発率は高いが、繰り返しのinjectionが可能で、75-80%がこの方法でpain free
5)ガンマナイフGamma Knife Radiosurgery
新しい治療法
他方向からのビームを一点で交差させ、病変部を破壊する
限局した小さな部分へ正確に照射することが可能 なため、隣接部への影響を最小限に抑制することが可能。
6)経皮的微小圧迫法percutaneous microcompression
小さなバルーンを問題のある部位で膨らませて神経を圧迫損傷させる
・Microvascular decompression(微小血管減圧術)
○原因として上小脳動脈the superior cerebellar arteryの圧迫が最も多い
○健康な患者には第一選択。成功率は高いが再発もある。
○Opeのcomplication率1%
○耳介後部から乳様突起後部にかけて皮膚切開をし、 外側後頭下到達法で、 三叉神経を圧迫している椎骨動脈の分枝を神経根から遊離する。
・Neurectomy(神経切断術)
○該当する神経を外科的に切除する
・Tractotomy(三叉神経脊髄路破壊術)
○pain pathwayを遮断するために三叉神経脊髄路核を切断する


三叉神経痛の外科療法(術式・効果・コメント)

術式 効果 コメント
アルコールブロック
(三叉神経末梢枝)
著効 疼痛緩和は約 8-16 か月48%でparaesthesia or dysesthesia が生じる
アルコールブロック
(三叉神経節)
4年後の時点で88% 15%に角膜の感覚脱失
4-7%に麻痺性角膜炎
55%に術後性paraesthesia
38%にparaesthesia
26%にヘルペスの発症
45%に一時的咀嚼筋能力低下
神経切断術 著効 疼痛緩和は約 26-38 か月anesthesia dolorosa や 角膜麻痺は稀
グリセロール神経根切断術 89-96% 7-10% で早期再発
長期的follow-upでは7-21%が再発24-80%顔面の 知覚低下
9%に感覚脱失
8-29% に顔面の dysesthesia
高周波神経根切断術 78-100% 1-17%は早期再発
長期的 follow-upでは4-32%が再発
7-23%に咬筋筋力低下
11-42%にdysesthesia
3-27% に角膜知覚低下
1-5%に麻痺性角膜炎
1-4% にanesthesia dolorosa
微小血管減圧術 96-97% 長期的 follow-upでは16-29%が再発
0.5-1.6%が死亡
7-8%に表情筋力低下
56% に軽度のparesthesia
5%に著しいparesthesia
15%に麻痺性角膜炎
三叉神経脊髄路破壊術 85% 10%に同側上下肢の運動失調
14%に反対側の感覚喪失
ガンマナイフ   感覚喪失

・Data for this table obtained from Burchiel KJ Surgical treatment of trigeminal neuralgia: minor and major operative procedures. In Fromm GH(ed): The medical and surgical management of trigeminal neuralgia. New York, Futura Publishing Co. 1987 p.71, p.101.
・Dysesthesia(異常感覚)
– unpleasant, abnormal sensory experience
– 不快な違和感 足がしびれてじんじんする感じなど
・Paraesthesia(錯感覚)
– abnormal sensation, but not unpleasant
– 違和感ではあるが不快ではないもの
・Hypoesthesia感覚減退- decreased sensitivity to stimulation
・Anesthesia dolorosa 有痛性感覚消失
(知覚鈍麻と疼痛が同時に存在する状態・求心路遮断によって生じる)