問診法・鑑別診断

問診の技術
「Orofacial Pain的診査」のもっとも重要な部分は「問診」で、専門医は「すぐれた問診の技術を身に付けているか」を問われます。

AAOPのannual meetingでは、この何年も、さまざまな講師によって「われわれ歯科医は、問診の技術を発達させてこなかった」という反省が繰り返し話されてきました。

歯科の診断というのは、(画像を含め)何秒間かの視診で済んでしまうものが大多数だったため、どうしても画像や目の前の問題(埋伏智歯など)に目がいき、主訴を聞いたら次には治療に取り掛かっているということが多かったのです。
問診をする習慣がないために、群発頭痛や三叉神経痛を診断できず、歯の治療をおこなってしまうといっても過言ではありません。

AAOPでは、問診の技術を非常に重要視しており、認定医試験の口頭試問で試されるのはまさにそこです。試験官は患者のように主訴を述べるくらいで、受験者はそこから問診を始め、限られた時間内に診断にたどり着かなければなりません(外国の受験経験者から聞いた話ですが)。

漫然とした質問は、時間の無駄である
診断は、玉石混交の情報を一点に帰納する技術ですから、まず自分の頭の中に鑑別診断リストがなければ、情報を統合することができません。「知らない病気は診断できない:You cannot diagnose what you don’t know」といわれる所以です。
また、自分の中に正解がない質問は、取捨選択のふるいが機能しないため、不要な情報でも患者の言うとおり鵜呑みにしてしまう原因になります。患者の話を聞いてただカルテに書き写すだけではなく、不要な情報を棄てることもできなければなりません。


構造化問診

問診の際には、患者に自由に話させることも大事ですが、少なくともこの8つのポイントを押さえるよう、常に医師が舵を取っている必要があります。
これらのポイントを押さえれば、「自然に答えにたどりつく」と言うAAOP専門医もいます。
■Location(部位):部位を特定すること。Site of painsource of painが異なる場合があることに注意。
■Quality(性状) :これがもっとも重要。おおまかには、「性状は4種類」と考えておけばよい。
1) dull-aching鈍い、疼くような)=筋骨格系の痛み、内臓痛
2) throbbing拍動性)=炎症が関与(血管性)
3) sharp, electric-like, lancinating電撃様疼痛)=発作性神経障害性疼痛
4) burning灼熱性・ひりひり)=持続性神経障害性疼痛

その他、群発頭痛などではboring(えぐるような)、pushing(目玉を押し出す・押し込むような) 、緊張型頭痛では「締め付けられるような」「きつい帽子をかぶったような」など、疾患によって独特な表現のものがある。

日本語は痛みのボキャブラリーが少ないので、ある程度以上強い痛みはすべて「ずきずき」と表現される。したがって、「ずきずき」はなんの手がかりにもならない。
拍動性かどうかを確認するためには「脈を打つようないたみですか?」と聞くのがよい。

■Intensity(強さ):VAS表記
10cmの線を引いて、左端を「痛み無し」、右端を「想像できる最悪の痛み」と説明し、その間の線上に現在の痛みの強さを点で示させる。

■Duration(持続時間)
 一次性頭痛、特にTACsの診断の際に重要な情報となる。群発頭痛か片頭痛かでは、3時間か4時間かの違いは大きいので、漠然と聞かずに、はっきりさせること。

■Frequency(頻度)
 一次性頭痛、特にTACsの診断の際に重要な情報となる。

■Aggravating factor(増悪因子)
■Alleviating factor(改善因子)
冷やすといいのか、暖めた方がいいのか。頸を回す体操をする(体動)とよくなるのか、反対に増悪するのか。炎症の有無や、疾患の原因の見当をつけることもできる大事な情報である。

ただし、患者が勝手に思いこんでいるだけのこともあるので、注意深く聞き取る必要がある。「おでこにサロンパスを張ると1時間くらいでよくなる」と信じている群発頭痛患者もいる。

■Behavior(発作中の行動)
「痛みのあまり**する」というのは、特に一次性頭痛の診断の際に重要な情報。
寝込むのか、のたうち回るのか・・。
ただし、文化的背景によって行動は異なる傾向がある。
欧米では群発頭痛患者は、痛みのあまり自分の頭を壁にぶつけたり、トンカチで頭を殴って痛みをごまかすなどというハゲシイ行動を取ることが知られている。「pacing(部屋をウロウロ歩き回る)」は群発頭痛患者の特徴的行動とされている。(試験のキーワード)
しかし、日本の患者は、頭をかかえてうずくまる、横になって身体を丸め苦しみを押し殺そうとする、など、じっとしてる印象がある。
もちろん「人目がなけりゃ、転げ回ります」と言った患者もいますが。