Paroxysmal Hemicrania(発作性片側頭痛)
3.2 Paroxysmal Hemicrania(発作性片側頭痛)
<診断基準>
3.2 発作性片側頭痛(PH)
解説:痛み、関連症候に関して群発頭痛に類似した特徴を有する発作であるが、群発頭痛より持続時間が短く、頭痛の発作頻度は高い。男性よりも女性に多く認められ、インドメタシン(indometacin)が絶対的な効果を示す。
A. B-Dを満たす発作が20回以上ある
B. 一側性の重度の痛みが眼窩部、眼窩上部または側頭部に2~30分間持続する
C. 頭痛と同側に少なくとも以下の1項目を伴う
1. 結膜充血または流涙 (あるいはその両方)
2. 鼻閉または鼻漏 (あるいはその両方)
3. 眼瞼浮腫
4. 前頭部および顔面の発汗
5. 縮瞳または眼瞼下垂 (あるいはその両方)
D. 発作頻度は大半で5回/日を超えるが、これよりも頻度が低い期間があってもよい
E. 発作は治療用量のインドメタシンで完全に予防できる(注1)
F. その他の疾患によらない(注2)
注:
1.効果不十分を避けるため、インドメタシンを用量150mg/日以上で経口または直腸投与、または100mg以上を注射するが、維持用量はこれより低用量で十分な場合が多い。(日本語訳にあたって参照)
2.病歴および身体所見・神経所見より頭痛分類5~12を否定できる、または、病歴あるいは身体所見・神経所見よりこれらの疾患が疑われるが、適切な検査により除外できる、または、これらの疾患が存在しても、初発時の発作と当該疾患とは時期的に一致しない。
コメント:男性優位はみられない。
通常は成人期に発症するが、小児例も報告されている。
第1版では、すべての発作性片側頭痛を慢性発作性片側頭痛と呼称した。
反復型について十分な臨床的証拠が集積したため、群発頭痛に則した方法で分類した。
■三叉神経痛が併存する発作性片側頭痛(発作性片側頭痛-チック[三叉神経痛]症候群):
3.2「発作性片側頭痛」および 13.1「三叉神経痛」の両方の診断基準を満たす患者は、両方の診断を下すべきである。
本知見の重要な点は両者とも治療を必要とすることである。
両者の合併の病態生理学的意義はまだ明らかになっていない。
3.2.1 反復性片側頭痛(EPH)
解説:発作性片側頭痛発作が7日~1年間発現し、この発作期と発作期の間には1ヵ月以上の寛解期がある。
診断基準:
A. 3.2「発作性片側頭痛」の診断基準A-Fを満たす発作がある
B. 7~365日間続く発作期が、1ヵ月以上の寛解期をはさんで2回以上ある
3.2.2 慢性発作性片側頭痛(CPH)
解説:発作性片側頭痛発作が1年間を超えて発現し、寛解期がないか、または寛解期があっても1ヵ月未満である。
診断基準:
A. 3.2「発作性片側頭痛」の診断基準A-Fを満たす発作がある
B. 1年以上を超えて発作が繰り返され、寛解期がないか、または寛解期があっても1ヵ月未満である
<文献要約>
Boes CJ, Swanson JW.
Paroxysmal hemicrania, SUNCT, and hemicrania continua.
Semin Neurol. 2006 Apr;26(2):260-70. Review.
群発頭痛と比較されるが、群発頭痛とは異なり、Chronic(慢性発作性片側頭痛)のほうがEpisodic(反復発作性片側頭痛)より一般的。
歴史
1974年に、SjaastadとDaleが初めて報告し、1976年には彼らにより「chronic paroxysmal hemicrania慢性発作性片側頭痛」と命名された。その後、寛解期があるものも報告され、episodic paroxysmal hemicraniaと命名された。HISは1988年の分類ではchronic paroxysmal hemicraniaとしていたが、2004年の分類では「発作性片側頭痛」とし、その下位分類としてchronic paroxysmal hemicraniaとepisodic paroxysmal hemicraniaを位置づけた。
疫学
群発頭痛は、1/1000人とされている。発作性片側頭痛は、5万人に1人と推定されている。
男女比は、1 : 1.6~1 : 2.36で女性に多い。どの年齢でも発症しうるが、平均では30代。
臨床的特徴
片側の、短時間の激痛発作で、自律神経症状を伴い、一日に何度も生じる。
疼痛部位は三叉神経第1枝領域に生じるが、三叉神経支配領域外にも生じうる。
疼痛の性状は、拍動性か穿刺性。
疼痛発作は突然生じ、突然終結する。
発作中は、約50%の患者は、座り込むかベッドの中で丸まって痛みに耐える。
通常、患側に自律神経症状を伴う。最も多く見られるのは流涙と鼻閉である。自律神経症状は、両側に発現することもある。疼痛と自律神経反応が別々のタイミングで生じることもある。
発作の持続時間は、10-30分(2-120分の幅有り)。
頻度は、1-40回。
74名の患者を対象にした研究では、平均発作時間は26分で、回数は6回であった。
群発頭痛のように、睡眠中に発作が生じることが多いというわけではない。
1/3の患者で、発作と発作の間にも不快感がある。
ほとんどの発作は自発性であるが、首の動きで誘発されるものもある。
CPHの患者では、アルコールで誘発されるのは7%(群発頭痛では70-80%)。
EPHでは、寛解期が見られる。頭痛期間は2週から4.5か月。寛解期は1-36か月。
光過敏(21%)、悪心(14%)、嘔吐(2%)を随伴することがある。27/31名の患者が、発作中に片頭痛の随伴症状様の症状を少なくとも一つ訴えたという報告もある。
鑑別疾患
自然経過
よくわかっていない。1989年の報告では、平均罹患期間13.3±12.2年。EPHは35年間EPHであり続けたという報告がある。EPHはCPHに変化しうるし、その逆もある。
インドメタシンに対するタキフィラキシー(tachyphylaxis=反復投与により効果が減少する現症)は一般的には起こらない。むしろ、インドメタシンで疼痛をコントロールしているうちに、維持量が少なくて済むようになることが多い。
治療
発作性片側頭痛は、インドメタシンに完全に反応する。25-300mg/day使用するが、多くの場合150mg/dayまでで、疼痛コントロールが可能である。
発作性片側頭痛疑いの患者には、まず25mgを3回3日間投与する。効果がなければ、50mgを3回3日間投与、それでも奏効しなければ75mgを3回3日間投与する。少しでも反応が見られたら、短期間で300mg/dayまでは試してみる価値がある。
発作性片側頭であれば、疼痛は通常、1-2日で消失する。臨床症状の改善悪化に伴い、doseの増減は必要である。インドメタシンの投与回数を減らしたり、服用が遅れたりすると、疼痛発作が再燃する可能性がある。
インドメタシンを中止しても発作が再燃しないケースもある。(CPHがEPHに移行した可能性がある)。そのため、3か月ごとにインドメタシンを減量して、まだ症状があるかどうかを確認する必要がある。その場合は、3日ごとに25mg/day減量する。
EPHの場合には、平均発作期間より2週間多く服用し、その後減量を試みる。
インドメタシンの他にも、celecoxib、rofecoxib、ボツリヌスA、ヴェラパミル、ニカルジピン、フルナリジン、イブプロフェン、ケトプロフェン、アスピリン、ピロキシカム、ナプリキセン、ジクロフェナック、フェニルブタゾン、アセタゾラミド、プレドニゾン、リチウム、エルゴタミン、酸素、メラトニンに反応したという報告もある。
副作用でインドメタシンが服用できない場合には、われわれは、celecoxib、次にカルシウムチャネルブロッカー、次にアセタゾラミドを試してみる。
Chronic paroxysmal hemicrania: a case report and review of the literature.
J Orofac Pain. 2003 Winter;17(1):74-8. Review.
Sarlani E, Schwartz AH, Greenspan JD, Grace EG.
CPHは、連日の、多発性、短時間の激痛発作で、自律神経症状を伴う、稀な頭痛である。
疼痛は、絶対的に変則で眼窩・側頭部・上顎・前頭部に生じる。
実際に患者が歯科医院やOFPセンターを受診することもあり、この耐え難い激痛は、歯痛や、TMDと誤診されることがある。
不必要な、非可逆的治療を避けるためにも、歯科医が知っていなければならない頭痛である。(Neurovascular Headacheとして、片頭痛・群発頭痛・CPHがあげられている。)
症例
62歳女性、2年前から、強い左顔面の疼痛が発現した。疼痛は、後頭下部と上顎、時として左耳に生じる。疼痛は、激烈で差し込むようなと表現され、日に約20回、約30分持続する。発作で覚醒することもある。
患側に、流涙、鼻閉、鼻漏を伴う。
三叉神経痛、上顎洞炎などと診断されており、左の上顎洞根本術を受けたが、症状に改善は認められなかった。
過去に受けた薬物療法は:カルバマゼピン、プレドニゾン(効果なし)
受診時には、2500mgのアセトアミノフェン(日)を服用していたが、あまり効果はなかった。TMJ、頸部、姿勢、口腔内、神経学的な異常なし。中枢もMRIで異常なし。
症状からCPHと診断し、インドメタシン75mg/dayを服用させたところ、疼痛は2日以内に消失した。
Discussion
CPHは比較的稀な疾患で、1万人に7人。男女比は1:2.36で、女性に多い。平均初発年齢は34歳で、6-81歳と幅がある。
臨床的特徴
連日の、多発性、短時間の激痛発作で、自律神経症状を伴う。
耳閉を伴うものも報告されている。
疼痛の性状は、拍動性、刺すような、えぐるような、である。
発作回数は、1-40回で、平均5-10回。
決まった時間に生じる。睡眠中にも生じ、患者を覚醒させることがある。
発作終了後(発作と発作の間)に、痛みが持続することは稀である。
持続時間は、2-120分。平均20分。
10%の患者で、首を曲げたり回転させることで発作を誘発させることがある。
アルコールで発作が誘発されるのは、7%にしか過ぎない。
患側に、流涙、結膜充血、鼻閉、鼻漏を伴う。
その他、眼瞼下垂、縮瞳、眼瞼腫脹、overheatedness、発汗、光過敏、音過敏、悪心、患側の皮膚の過敏を伴うことがある。罹患部は片側でも、眼症状、自律神経症状は両側に発現することがある。とはいっても、患側の症状の方が強い。
病態生理
詳細は不明。
疼痛発作時に自律神経症状が発現することから、自律神経の活性化が病態生理に関与しているのではないかという説がある。交感神経系(発汗、眼圧上昇)、副交感神経系(流涙、鼻漏、縮瞳)のほかに、心拍の不正(多発性期外収縮、徐脈)などから、自律神経系の中枢コントロールの障害がCPHの原因だという仮説がある。
他にも、視床下部の大脳辺縁系の伝達路の障害という説や、中枢にトリガーがある神経原性炎症という説もある。
遺伝的要因は関与していないようである。
妊娠中は90%の症例で発作が消失すること、逆に、出産を機会に発症したものもあることから、ホルモンの関与は考えられている。
鑑別疾患
群発頭痛
歯髄疾患
TMD
三叉神経痛
症候性CPH
管理
インドメタシンによる予防療法は絶対的に奏効する。
それゆえに、日に4回位以上発作がある患者には薬物療法が推奨される。
75mgを分3で、さらに必要であれば150mgに増量して3日服用する。通常50-125mgで奏効するが、必要で有れば200-250mgに増量する。疼痛は通常4時間以内に消失する(数時間から5日の幅がある)。
服用を中止した場合、数時間から12時間以内に疼痛が再発する。
インドメタシンに対する耐性は報告されていない。
むしろ、時間と共に必要な量が少なくて済むようになる。
副作用には、消化不良、食欲不振、悪心、腹部痛がある。胃腸の副作用を抑えるために、H-2ブロッカーなどを処方する。
副作用でどうしても服用できない場合には、サリチレートが有効なばあいがある。一方、ナロキセン、プレドニゾン、エルゴタミン、ブタゾリジン、ジクロフェナック、ケトプロフェン、ヴェラパミールが、やや効果があった患者がいたという報告もある。
これらの薬は同じようにシクロオキシゲナーゼ活性を抑制するにもかかわらず、なぜインドメタシンだけが劇的に奏効するのかは、今のところ不明である。