頭痛各論2-症候性頭痛
症候性頭痛
症候性頭痛は、なにか他に原因があって、二次的に生じた頭痛を指します。上顎洞炎で頭痛や歯痛が生じることはよく知られていますが、くも膜下出血(致命的)や、側頭動脈炎(診断が遅れると失明に至る)などのような重大な疾患も含まれています。
症候性頭痛の勉強のポイントは、以下の4つです。
1、頭痛の原因となっている疾患の「疾患概念」を把握すること
2、緊急性
3、鑑別法(検査方法)
4、治療法
危険な頭痛の兆候(しるし)
1. いままでに経験したことがない頭痛:くも膜下出血のときによく認められます。また頭痛もちが髄膜炎など症候性頭痛を合併したときによく見られます。機能性頭痛の場合は、ステレオタイプ(毎回同じ)の頭痛発作を繰り返していますので、患者さんは「いつもの頭痛」と認識しています。しかし、「今までに経験したことがない頭痛」や「いつもと違う頭痛」の場合は注意が必要です。
2. いままでの最悪の頭痛:first worst headache(最初にして最悪の頭痛)ならば、第一に症候性頭痛を疑います(例、くも膜下出血)。すぐに病院の受診が必要です。
3. 突発する頭痛:突発する頭痛はくも膜下出血の特徴です。血管が破裂した際に生じる疼痛ですから、頭部には「ガーン」というショックがあり、何時何分に起こったといえるほどonset(開始)がはっきりしています。突発完成型頭痛はくも膜下出血を疑います。
4. 嘔吐を伴う頭痛:片頭痛は嘔吐を伴いますが、その場合には悪心が先行するのが普通です。悪心がなく、激しい疼痛で嘔吐する場合には、脳圧亢進を第一に考えます。すなわち、脳腫瘍や髄膜炎、脳膿瘍などの可能性があります。
5. 高齢者の初発頭痛:高齢者で機能性頭痛が始まることはまれですので、まずは症候性頭痛を考えなければなりません。慢性硬膜下血腫、側頭動脈炎などの可能性があります。
6. 進行性、徐々に悪化あるいは持続的な頭痛:脳腫瘍や真菌・結核性髄膜炎など、治療が遅れると致命的な疾患でよく見られます。
7. 病感が強い(患者が憔悴している):側頭動脈炎や種々の全身疾患では、頭痛のほかに全身倦怠感や食思不振を訴え、憔悴しています。
8. 神経症状(麻痺、複視)を伴う頭痛:脳梗塞、脳出血、脳腫瘍など脳疾患では神経症状を伴います。
9. 精神症状を伴う頭痛
10. てんかんを伴う頭痛:脳炎、脳腫瘍ではてんかんをおこすことがあります。
11. 項部硬直のある頭痛:項部硬直は髄膜炎の特徴的な所見です。
12. うっ血乳頭を伴う頭痛:うっ血乳頭は眼底鏡を用いて確認しますが、脳腫瘍などで頭蓋内圧が亢進したときに見られる所見です。
13. 発熱、発疹を伴う頭痛:ウイルス感染で起こります。
未明・早朝からの頭痛:歯科では、起床時に顎関節症症状や頭痛が強く、午後になるにしたがって症状が改善する場合には、睡眠中のブラキシズムに起因する症状と考えるのが一般的ですが、医科で「morning headache」というと真っ先に脳腫瘍などの頭蓋内圧亢進時や、肺疾患によるCO2ナルコーシスなどを疑います。
6.4 くも膜下出血
頭痛の鑑別をする際にもっとも見落としてはいけないのが、「血管障害に伴う頭痛」です。この疾患の患者が歯科を受診する可能性はほとんどありませんが、頭痛の勉強をするならば「常識」としてある程度のことは知っていなければなりません。
くも下出血
血管障害に伴う頭痛…頭痛一般の知識として重要
脳の血管障害、すなわち脳血管の閉塞や出血により突然麻痺や意識障害を起こす疾患を総称して脳卒中と呼ぶ。脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分けられる。
くも膜下出血は突然発症する激しい頭痛を特徴とし、早期治療により転帰が大きく左右されるため、見逃してはならない頭痛疾患の代表である。
くも膜下出血では、動脈瘤の破裂により突然の激しい頭痛が起こるが、この時点で治療を開始しないと、後に(24時間以内が多い)再破裂をきたす頻度が高い。再破裂を起こした場合には、初回破裂後の状態よりも必ず悪化し、死亡することが多く、生存しても重篤な後遺症を残す
くも膜下出血の頭痛の特徴
症状は何時何分と言えるぐらい「突然」に「今まで経験したことがない激しい痛み」で起こる。重症なものでは急速に意識障害をおこすので、頭痛を訴える間もなく突然の意識障害で発症する場合もある。随伴症状として、悪心、嘔吐を伴うことがある。
神経学的には項部硬直を認める。
また動脈瘤の圧迫による動眼神経麻痺、出血による虚血症状として片麻痺、精神症状を来すこともある。
検査と治療:突然起こる今まで経験したことがない頭痛(first worst headache)を訴える患者には、症状の軽重にかかわらず積極的に検査を行い、くも膜下出血を鑑別する必要がある。CTや腰椎穿刺を行う。中脳レベルでは「ダビデの星」、橋レベルでは「ペンタゴン」と呼ばれる特徴的な画像所見を示す。
6.5 側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)
診断のポイント
1、50 歳以上の高齢者で始まった新たな限局性の頭痛
2、浅側頭動脈の発赤腫脹、圧痛、索状肥厚、拍動減弱
3、発熱、全身倦怠感、食思不振、体重減少などの全身症状の存在
4、咀嚼の際に咬筋や側頭筋に痛みを訴える(顎跛行)
5、赤沈高度亢進
疾患概念(診断基準)
病態の本質は、巨細胞を伴う肉芽腫性動脈炎で、頭頸部の動脈に炎症と狭窄が生じるために、様々な症状が発現する。浅側頭動脈が好発部位であるため側頭動脈炎と呼ばれているが、自己免疫疾患(全身疾患)である。
有病率は、人種によって大きな差があり、白人では人口10万対17.4人、本邦では人口10万対0.56人と30倍近い差がある。本邦では「稀な疾患」という認識である。「老人の病気」と考えてよく、発症平均年齢は70歳代だが、高齢になるほど有病率は高くなりる。
臨床症状
局所症状は、血管の炎症に起因するものでは、一側あるいは両側の側頭部または頭部全体の激しい頭痛、頭皮の強い圧痛、側頭部の発赤、腫脹、著明な圧痛で、ひどくなると「軽く触れても痛い」ため、患者が触診を避ける場合もある。血管の閉塞に起因するものでは、浅側頭動脈の怒張、索状肥厚、結節、拍動の減弱・欠如・顎跛行があげられる。
顎跛行(Jaw claudication)
咀嚼筋を栄養する動脈が罹患した場合に生じる症状。
咀嚼筋に阻血性疼痛が生じるため、咀嚼を中断・再開する現象をいう。側頭動脈炎に特徴的な症状とされている。顎跛行の機序は下肢の動脈の狭窄・閉塞に起因する間欠性跛行と同じである。
検査
1、血沈
2、生検:側頭動脈炎の病変は分節状にみられるので(skip lesion)、血管は3~6cm採取する。
3、血管造影:血管造影では浅側頭動脈の狭窄を認める。なお、血管造影は合併症の危険が高いので年齢や基礎疾患(高血圧や糖尿病などの有無)を考慮しておこなう必要がある。
治療法
治療方針
消炎・鎮痛と失明などを予防するため、診断がつき次第、副腎皮質ステロイドの投与を開始する。(最初は大目の量、その後徐々に減量。)
処方例
プレドニン錠(5mg)12錠 分1 朝食後
ガスター錠(10mg)2錠 分2
維持量まで減量し(10‐15mg連日あるいは20‐25mg隔日)、数か月程度続ける。
細菌性髄膜炎
歯性感染から生じることがある。
極めて緊急性が高い疾患で、早期に適切な治療が行われないと、死亡や重篤な後遺症を招く危険性が高い。
疾患概念(診断基準)
髄腔内の微生物感染による炎症性疾患で、原因微生物として、ウイルス、細菌、結核菌、真菌があげられる。このうち、細菌が原因微生物であるものを「細菌性髄膜炎」もしくは「化膿性髄膜炎」と呼ばれており、経過が急激で治療は一刻を争う。
死亡率は未治療では50-90%ときわめて予後不良で、治療しても10%は死亡する。また慢性化する場合は脳膿瘍となることがある。
臨床症状
症状は急性発症の頭痛、発熱で、重篤になると嘔吐、意識障害、けいれんを伴う。
神経学的所見は髄膜刺激徴候である項部硬直やケルニッヒ徴候を認める。
検査
診断は髄液所見(髄液圧、細胞数、蛋白、糖)より行う。
(正常値:髄液圧:70~180mmH2O、細胞数:5個/mm3以下、蛋白:15~45mg/dL、糖:50~75mg/dLもしくは血糖の1/2~2/3)。
細菌性髄膜炎では:
髄液圧は上昇(200mmH2O以上)
細胞数増加(500~10000個/mm3、殆どは好中球)
蛋白は上昇(50~10005mg/dL)
糖は低下(0~205mg/dLもしくは血糖値の1/3以下)
髄液の色:正常な場合は外観は無色透明だが、細菌性髄膜炎では通常白濁。
治療法
原因菌の確定とその抗菌薬感受性を知ったうえで治療することが理想的だが、まずはペニシリンG、ビクシリン、セフォタックスの何れかを開始する。これらの薬物の開始後に原因菌や感受性が明らかとなった場合は、髄液の移行性を考慮しながらより有効な抗菌薬へ切り替える。
8.2.2 鎮痛薬乱用による頭痛
疾患概念(診断基準)
頭痛のために鎮痛薬を乱用することで、生じた頭痛。
(この疾患の本態は痛み調整系がコントロールを失い、痛み閾値が低下したものであるため、顎関節症やリウマチなどの対症療法として鎮痛薬を投与した場合には生じない。)
具体的には、1ヶ月に50g以上のアスピリンあるいはその類似物質を服用した場合、バルビツールあるいはそれ以外の非睡眠性鎮痛物質を1ヶ月に100錠以上使用した場合、複数の催眠性鎮痛薬を使用した場合に現れる頭痛と定義されている。
IHS診断基準
8.2.2 鎮痛薬乱用性頭痛Analgesics abuse headache
下記の1-3の1つ以上
1. アスピリンを1ヶ月で50 g 以上。または他の弱い鎮痛薬を同等量以上
2. バルビツレートまたは他の非麻薬性化合物と合剤になっている鎮痛薬を、1ヶ月に100 錠以上
3. 麻薬性鎮痛薬を1種類以上
コメント:この診断は原因薬物を中止した後に疼痛が緩和することによって、確定診断となりうる。(断薬により薬剤誘発性頭痛は消失するが、もとの頭痛は消失しないことが多い)
原因薬剤
エルゴタミン 経口で1日2mg(坐薬で1mg)以上
カフェイン
セデスG(2001年製造中止)
NSAIDs
アスピリン 50g/月以上
バルビタール等配合鎮痛剤(日本ではないが鎮静薬を含むものとしてセデスG) 100錠/月以上
治療法:断薬。
断薬による疼痛は最初の3~7日ぐらいがひどいがこの時期を過ぎると頭痛は軽減、消失する。
*文責:今井昇
分類
専門医が知っているべき症候性頭痛
症候性頭痛
5.頭部外傷
6.血管障害に伴う頭痛
6.3 くも膜下出血(代表的な「命にかかわる頭痛」)
6.5 巨細胞性動脈炎(顎の痛みが主訴となることも多く、顎関節症と間違えられることがあるが、治療が遅れると失明する)
7.脳腫瘍など頭蓋内疾患
7.3 頭蓋内感染症(細菌性髄膜炎:歯性感染から生じうる重篤な疾患。歯痛を訴えていた患者が、激しい頭痛を訴え始めてやっと気づくことがある。一刻を争う致命的な疾患。
ライム病)
8.原因物質あるいはその離脱に伴う頭痛
8.2 原因物質の慢性摂取または暴露による頭痛
8.2.1 エルゴタミンによる頭痛
8.2.2 鎮痛薬乱用による頭痛(顔面痛を呈するため顎関節症と間違えられるが、治療に全く反応しない。知っていさえすれば対応可能な疾患。)
8.3 原因物質離脱頭痛 (急性使用)
8.3.1 アルコール離脱頭痛(二日酔い)
9.頭部以外の感染症に伴う頭痛
10.代謝障害
11.頭蓋骨、頚、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいは他の顔面・頭蓋組織に起因する頭痛あるいは顔面痛
11.5 鼻および副鼻腔
11.5.1 急性副鼻腔炎(いわゆるSinus Headacheとして、米国では一般の人にもよく知られている疾患。頭痛・顔面痛・歯痛を呈するため、患者は三叉神経痛の治療や抜髄を受けていることも多い。頻度が高いので、知っている必要がある。)
11.7 顎関節の疾患
12.神経痛(神経因性疼痛は、別項に記載します。)
そのほか
13.分類できない頭痛