AAOPのTMD分類と診断基準
文責 村岡渡
AAOPのTMD分類

11.7 顎関節障害
11.7.1 先天性障害および発育障害
11.7.1.1 形成不全
11.7.1.2 減形成
11.7.1.3 過形成
11.7.1.4 異形成
11.7.2 円板転位障害
11.7.2.1 復位性円板転位
11.7.2.2 非復位性円板転位
11.7.3 脱臼
11.7.4 炎症
11.7.4.1 関節包炎および滑膜炎
11.7.4.2 多発性関節炎
11.7.5 骨関節炎(非炎症性障害)
11.7.5.1 原発性骨関節炎
11.7.5.2 二次性骨関節炎
11.7.6 強直症
11.7.7 骨折(関節突起)

11.8 咀嚼筋障害
11.8.1 筋・筋膜痛
11.8.2 筋炎
11.8.3 筋スパズム
11.8.4 未分類の局所の筋痛
11.8.5 筋線維性拘縮
11.8.6 新形成
11.7顎関節障害

11.7.2 関節円板の転位障害 Disc Derangement Disorders

11.7.2.1 復位性円板転位 Disc Displacement with Reduction

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・ 開、閉口運動中、再現性のある関節雑音が通常は異なった顎位で生じる
・ 軟組織画像は転位した円板を示すが、この位置関係は開口時には改善、硬組織画像では著明な骨変化を認めない

<復位性円板転位の特徴>
・ レシプロカルクリッキング
・ deviation:開口時に顎が偏位するが、最大開口では中心にもどる
(対になる言葉はdeflection、次項参照)

11.7.2.2非復位性円板転位 Disc Displacement without Reduction

1)急性の非復位性円板転位

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・ 突発性発症の現病歴を有し、持続的で著明な開口制限(35㎜以下)
・ 開口時の患側への変位
・ 対側への著しい側方運動の制限(片側性の場合)
・ 軟組織画像上での非復位性円板転位像、硬組織上では著明な骨変化を認めない

2)慢性の非復位性円板転位

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・ 4ヶ月以上に及ぶ突発的に生じた開口制限
・ 軟組織画像上での非復位性円板転位像、硬組織上では著明な骨変化を認めない

deflection:開口時に下顎が患側へ直線的に偏位する(withoutの特徴)
deviation:開口時に顎が偏位するが、最大開口では中心にもどる(withの特徴)
(同じ「偏位」であるが、deflection とdeviationの違いを知っている必要がある。
この2つの記載で復位性か非復位性かの判断をするといっても過言ではありません。)
11.7.3顎関節脱臼Temporomandibular Joint Dislocation

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・ 閉口不能、特別な手技によって解除
・ 明らかに関節隆起を超えた下顎頭を示すX線写真

11.7.4 炎症性疾患 Inflammatory Disorders

11.7.4.1 滑膜炎および関節包炎 Capsulitis/Synovitis

日本顎関節学会の分類ではⅡ型に相当するものである。関節包炎、滑膜炎ともに顎関節の圧痛が強く、安静時にも自発痛があり、さらに機能時に痛みが増悪するのが特徴。

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・ 顎関節部に限局した痛みがあり、とくに関節上部または後部への負荷をともなう機能時、または触診時に増悪
・ 硬組織診断では著しい骨変化を認めない
<滑膜炎・関節包炎の特徴>

滑膜炎は、感染や外傷性に起きる滑膜の炎症。ひどくなると滑液が増加して、急性の不正咬合を生じる可能性もある。
関節包炎は、関節包とそれを支える外側靭帯が強く引き伸ばされることによって起こる炎症である。臨床的には関節包炎と滑膜炎を区別することは困難である。
・また、メジャーなInflammatory disorderとしてretrodiscitis(関節円板後部組織炎)があるがAAOPでは以前に用いられた用語としており厳密には現在は使用しない。用語の意味はもちろん治療法も同様であり通常NSAIDsが第一選択とされる。

11.7.4.2 多発性関節炎Polyarthritides

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・下顎機能にともなう痛み
・顎関節触診時の圧痛点の存在
・痛みによる下顎運動範囲の減少
・著明な構造的骨変化を示すX線写真像

<多発性関節炎Polyarthritidesの特徴>
リウマチなどの全身の関節が侵される疾患の総称。両側の下顎頭に骨吸収が起こると結果的にオープンバイトが生じることがある。骨変形が認められた場合には、リウマチ因子などの血清学的診断をおこない、まずこのグループの関節炎を診断する必要がある。Systemic disorderと判断された場合、それ自体の治療は専門医に依頼する。歯科的管理は二次的な訴えに関するものである。

鑑別すべきものとして以下があげられる。
・ Rheumatoid arthritis(関節リウマチ)
・ Juvenile rheumatoid arthritis(若年性関節リウマチ)(still’s disease)
・ Psoriatic arthritis(乾癬性関節炎)
・ Infectious arthritis(感染性関節炎)
・ Autoimmune disorders(自己免疫疾患)
・ Mixed connective tissue disorders(混合型結合織疾患)(Sjogren syndromeシェーグレン症候群など)

11.7.5 骨関節炎 Osteoarthritis(非炎症性疾患)

11.7.5.1 原発性骨関節炎Primary

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・ 固定しうる病因がない
・ 下顎の機能にともなう痛み
・ 触診時の圧痛点の存在
・ X線写真による、構造的骨変化(軟骨下骨硬化、骨棘の形成)と、関節空隙の狭小化の存在
11.7.5.2 二次性骨関節炎Secondary

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・ 骨関節炎に関連する明確に記録された疾患または出来事の存在
・ 下顎機能時の痛み
・ 触診時の圧痛点の存在
・ X線写真による、構造的骨変化(軟骨下骨硬化、骨棘の形成)と、関節空隙の狭小化の存在

<骨関節炎の特徴>
下顎頭に骨変形が認められるものをいい、日本顎関節学会の分類ではⅣ型に該当する。原発性はいわゆる原因不明なもの、二次性は外傷や全身性の骨関節炎などに引き続いて起こるものをいう。
Degenerative disorders(変性疾患)としてpolyarthritidesとosteoarthritisがあるがこの2つは、炎症性と非炎症性に分けられることがポイントである。

11.7.6 強直 Alkalosis

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・ 開口時の下顎運動範囲の減少
・ 開口時の患側への著明な変位
・ 対側への側方運動の著明な制限
・ 関節空は確認できるが、開口時の患側下顎頭移動の欠如を示すX線写真所見

11.8 咀嚼筋障害

11.8.1 筋・筋膜性疼痛 Myofascial Pain

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること。
・ 局所の鈍い(Dull Pain),疼く痛み(Aching Pain)。下顎機能によって痛みは悪化する。
・ Trigger Point’s Painが高頻度で触診される。
・ Spray and StretchまたはTrigger Point’s Injectionにより50%以上の痛みが軽減される。
11.8.2 筋炎 Myositis

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・ 痛みは通常は持続的で、損傷または感染を受けた筋に限局している
・ 筋全体にわたるビ慢性の圧痛がある
・ 咀嚼筋の場合、下顎運動によって痛みが増加する
・  痛みと腫脹により中等度から重度の運動制限がある

11.8.3 筋スパズム(筋痙攣・緊張収縮性筋痛)Myospasm

<診断基準>
以下のすべてを満たしていること
・ 安静時、および機能時における急性の痛みの発現
・ 持続的な不随意な筋収縮の結果としての運動範囲の著明な減少
・ 咀嚼筋が罹患した場合、顎機能の著明な制限と急性の不正咬合
・ 高いEMG活動

<筋スパズムの特徴>

– 急性疾患である(急性か慢性かという情報は、鑑別診断において非常に重要)
– 持続的にEMGが上昇
– 筋のスパズムによる疼痛(痙攣が生じている状態)
– 顎運動制限 (関節円板転位による開口障害との鑑別を行うことが重要)
– 急性の不正咬合(顎が健側に偏位することによる臼歯部離開)が生じている場合は、外側翼突筋のスパズムを考慮する。鑑別には、前方突出運動試験を行う。これは、Drがオトガイ部を圧迫し、その力に逆らうように下顎前方運動を行わせる。すなわち顎関節が移動しない(滑走運動を始める前の)状態で、外側翼突筋の収縮のみをおこさせる。 外側翼突筋のスパズムであれば明らかな強い疼痛が誘発される。
– 円板転位による急性の開口障害では、前方突出運動試験では痛みは誘発されない。

11.8.4 Local Myalgia(分類不能な局所性筋痛)

・ 11.8.1~3までのような明確な特徴や科学的データを伴わないがその他の筋痛が存在すると
考えられている。
・ 遅発性筋痛、防御的筋スプリンティング(共収縮)などの2次的筋痛が含まれる。
防御性共収縮:Muscle co-contraction, Muscle splinting
– 中枢からの防御的な反射反応
– 開口筋と同時に拮抗筋である閉口筋も活動してしまっている綱引きの状態
– SpasmではEMGは上昇したままだが、Muscle co-contractionでは安静時は低下し、動かすと上昇する

遅発性筋痛 Delayed onset muscle soreness (DOMS)
– 筋の断続的な、過剰使用による有痛性病態
– 24~48時間後に痛みが生じる
– 筋炎の一種とも考えられるが臨床的にはlocal myalgiaに含める
– 腫脹、EMGの上昇、TPs、関連痛を認めない
– スポーツをおこなった1~2日後に生じるいわゆる筋肉痛のこと
11.8.5 筋線維性拘縮 Myofibrotic contracture

<診断基準>
・ 下顎運動範囲の減少
・ 受動的な開口終期での堅固な抵抗感(hard end-feel)
・ 筋の強制的な伸展をしなければ無痛性

<特徴>
基本的には無痛性で、筋組織への感染あるいは外傷の病歴を持つことが多い。

Muscle contractureは以下の2つに分類されるとする考え方もある
Myostatic contracture(可逆性)
– stretchにより回復可能
– たとえば顎間固定後の開口障害

Myofibrotic contracture(非可逆性)
– 外科処置を行わないと回復しない
– たとえば、Ca術後の開口障害
11.8.6 新形成
TMD、OFP領域での悪性腫瘍を含めた腫瘍性病変は数%あるといわれている。

その他の筋痛:ファイブロマイアルジアFibromyalgia (線維性筋痛症)

<米国リウマチ学会による診断基準>
・ 痛みが3ヶ月以上持続
・  全身の特定の18ヶ所の検査部位中で11部位以上の圧痛(Tender Points)が認められる
・  EMG活動は正常である
日本では、その存在自体を否定する神経内科医が多い。
しかしながら、米国では頻度が高い疾患であると認識されているため、筋障害を語る際には必ず登場する疾患である。原因はよくわかっていないが、第一選択薬は三環系抗うつ薬である。

本疾患で見られる圧痛をTender Points(TePs)という。筋筋膜痛のTrigger Poins(TPs)、三叉神経痛のトリガーゾーンと混同しないこと。

 

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