SNRIの使い方

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http://www.cnsspectrums.com/aspx/SearchResults.aspx?st=g&search=SNRIs:%20Their%20pharmacology(リンク切れ)

SNRIs: Their Pharmacology, Clinical Efficacy, and Tolerability in Comparison with Other Classes of Antidepressants
Stephen M. Stahl, MD, PhD, Meghan M. Grady, BA, Chantal Moret, PhD, and Mike Briley, PhD
要点
*SNRIにはvenlafaxine, ミルナシプラン、duloxetineの3種類がある。

 *Venlafaxine, ミルナシプラン(トレドミン), duloxetine は、それぞれ異なった選択性でセロトニン(5-HT) とノルアドレナリン (NE) の再取り込みを阻害する。再取り込み阻害の割合は (5-HT:NE) ミルナシプランが 1:1とほぼ同じであるのに対し 、duloxetine が1:10、venlafaxine は1:30である。(山田注:ミルナシプランのセロトニンvsノルアドレナリンの再取り込み阻害作用の比率を1:1とした場合に他の2剤は、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用の方がずっと強いという意味で、「venlafaxineはミルナシプランの30倍ノルアドレナリン再取り込み阻害作用が強い」という意味ではない。)

 *セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害しうる臨床用量で使用した場合、この3種類のSNRIs は、SSRIs よりも速やかに、より効果的に大うつ病性障害を改善する。

 *SNRIsは様々な不安障害に有効である。 不安障害に対する効果は、SNRIsもSSRIsもほぼ同じである。

 *SNRIsは慢性疼痛治療に有効である。(SSRIsは一般的に有効ではない。)

 *SNRIの中で、最も服用しにくい(患者のコンプライアンスが悪くなる)のはVenlafaxine である。 なぜならセロトニン系の副作用(serotonergic adverse effects )である、悪心、性的機能障害、退薬症候群などがあり、また用量依存性の心血管系副作用(高血圧など)が生じるからである。これに対し、Duloxetineとミルナシプランはより副作用が少なく、本質的に心血管系の毒性(cardiovascular toxicity)も全くないため、服用しやすい。

Introduction
TCAは今や、高価な新規抗うつ薬が買えない人だけが使う薬という認識である。
SSRIは好んで使われている。抗うつ効果を発揮するためには。どれか一つのモノアミンの再取り込みを阻害すればいいようである。
しかし、すべての抗うつ薬の効果は60%-70% 。 “一つのモノアミンより二つを(阻害した方が効果があるはず)two actions are better than one” という考え方は、セロトニンとノルアドレナリンの両方の再取り込みを阻害する薬、すなわちserotonin and norepinephrine reuptake inhibitors (SNRIs)を開発する方向に向かった。
SNRIには、venlafaxine、ミルナシプラン、duloxetineの3種が存在する。

Pharmacology: similarities and differences between venlafaxine, ミルナシプラン, and duloxetine
In Vitro Studies
ひとくくりにSNRIsといっても、この3種類の薬の親和性と選択性にはかなりの違いがある。

Venlafaxine は5-HT transporterに高い親和性があるが、NE transporter にはない。 Venlafaxineの効果は、用量依存性で、SNRIとして効果を発揮するためには、高用量まで使う必要がある。すなわち、低用量ではノルアドレナリンの再取り込み阻害作用は生じず、SSRIを使っているのと同じことになってしまう。

Duloxetineの両者への親和性はもっとバランスがとれたものである。 しかしこれも5-HT transporterにより高い親和性を示す傾向がある。

ミルナシプランは最もバランスが取れているが、serotonergicより noradrenergicの効果がやや強い傾向がある。セロトニン、ノルアドレナリン両トランスポーターへのバランスの取れた高い親和性は、ミルナシプランの効果がTCAsに近く、しかも副作用が少ない理由を説明しうる。

duloxetineも同様で、どんな用量でもセロトニン・ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。

Venlafaxineとduloxetineには、低いながらdopamine transporter への親和性がある。(ミルナシプランにはない。)このことは、高用量を使用する際に臨床的に問題を引き起こす可能性がある(とくにvenlafaxine)。
Pharmacokinetics
すべてのSNRIs は内服した後、速やかに吸収される。SSRIsに比べてSNRIs の半減期は非常に短い。Venlafaxineは4時間、ミルナシプランは8時間、 duloxetine 12時間である。(そのため1日2回の分服が必要。)

Venlafaxineとduloxetineは肝のcytochrome P450 isoenzyme 2D6で代謝される。そのため、この酵素を阻害するような薬との併用をすると、薬物相互作用が生じる。そうはいってもcytochrome P450の阻害作用は、SSRIs(パロキセチン(パキシル), fluoxetine, fluvoxamine)ほど強力ではない。

薬物相互作用が生じない唯一のSNRIはミルナシプランである。

Clinical studies of SNRIs in comparison with SSRIs
慢性疼痛
今まで繰り返し言われ続けてきたことだが、疼痛とうつ病の治療法は、「セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害すればよい」という点で精神薬理学的には同様である。また、疼痛の緩和には、セロトニンよりアドレナリンの方が重要だという指摘もある103。実際にdiabetic neuropathyやヘルペス後神経痛などのさまざまな慢性疼痛には、SSRIsよりも、セロトニンとノルアドレナリンの両方に作用するTCAs が有効である。( A meta-analysis の研究も、慢性腰痛には、SSRIsよりもTCAsが有効であると結論している。)

Open trialsは、venlafaxineがfibromyalgiaを含む慢性疼痛に有効だと報告している。

ミルナシプランの慢性疼痛(舌痛症、整形外科的疼痛, fibromyalgia)に対する効果についてもopen trialsがある99 。ミルナシプランのfibromyalgia に対するplacebo-controlled study では、ミルナシプラン 200 mg/dayで37%の患者に50% 以上の疼痛強度緩和が認められたという報告がある110(placebo-treated patients では14% (P<.05)).

ノルアドレナリン単独への作用、またはセロトニンとノルアドレナリン系のコンビネーションで作用することが、疼痛緩和につながるという報告がある103 。(だからSSRは痛みに効かない。)TCAsとvenlafaxineは様々な慢性の神経因性疼痛症候群(ヘルペス後神経痛, diabetic neuropathy, and fibromyalgiaなど)に効果があるが、一方、SSRIs(fluoxetineやcitalopram)では慢性疼痛には効果がない。104,114,115
しかしSSRIsがある程度は疼痛を緩和するという報告もある。身体疾患から疼痛性障害まで多岐に渡る(頭痛、胃腸系の疼痛, 耳鳴, fibromyalgia, and 慢性疲労)94の placebo-controlled studiesのmeta-analysis117ではTCAs やSSRIsを使っており、どの抗うつ薬も同程度の疼痛緩和が得られたと結論している。
最近では疼痛性障害の患者35名にdouble-blindで行った研究で,119 SSRI であるcitalopramとアドレナリン再取り込み阻害薬(NRI)であるreboxetine,を比較した場合、citalopramが著効したという報告がある。

2003の,慢性腰痛105の治療に抗うつ薬を使用した研究の a meta-analysisでは、ノルアドレナリンの再取り込み阻害作用があるTCAs と四還系抗うつ薬では疼痛緩和が得られたが、 SSRIs は向こうだったとしている。venlafaxine with SSRIs102を比較したpooled analysis of 31 double-blind studiesは、SNRIはSSRIs よりずっと効果的であると報告している。

今のところ、dual-acting antidepressants (both TCAs and SNRIs) は physical symptoms(うつ病の身体化によって生じる疼痛やさまざまな慢性疼痛)に効果があるといってよさそうである。

Tolerability of serotonin reuptake inhibitors in comparison with SSRIs
General Tolerability
SNRIsと SSRIsに最も高頻度に見られる副作用は悪心(吐き気)である。SNRIsとSSRIsでは同様の頻度で生じるが、venlafaxineとduloxetineで生じ、ミルナシプランではやや少ない (Table 5)。 一般的に、この3種のSNRIsで生じる副作用はほぼ同じである。ミルナシプランで少ないような印象である。副作用の多くは、ノルアドレナリン系の刺激によって生じるもので、口渇、発汗、便秘などは, SSRIs よりもSNRIsでよく見られる(あまり大差はないが)。

Sexual Dysfunction
SSRIsが最初に導入されたときには、副作用がないと考えられていたが、広く使用されるようになり、副作用が明らかになってきた。SSRIs を服用している患者ではsexual dysfunctionが高頻度に(75%に)生じることがわかってきた。この副作用は5-HT2 and 5-HT3 receptorsやさまざまなシステムと関連して生じる。123

Venlafaxineでもsexual dysfunctionは生じる。SSRIsとvenlafaxineでは、36% to 43%と同様の頻度でこの副作用が生じる.

sexual dysfunctionはミルナシプランでは生じない。

Withdrawal Effects(退薬症状)
SSRIs特にパロキセチン(パキシル)では、治療後に急に薬剤を減量することで、退薬症候群(5-HT withdrawal syndrome)が生じることが知られている。127-129 venlafaxineも同様に退薬症候群を生じる。しかしこれは、すべての SNRIがそうであるという意味ではない。パロキセチン(パキシル)とミルナシプランで治療をした際の比較では、パロキセチン(パキシル)では退薬症状が生じるが、ミルナシプランではほとんど生じないと報告されている。
生じる退薬症状も両者で異なり、パロキセチン(パキシル)ではめまい, 不安、睡眠障害(不眠と悪夢)が主な症状であったが、ミルナシプランでは不安の増加が唯一報告された退薬症状であった。
Cardiovascular Effects
Venlafaxineの場合、ノルアドレナリン系の効果で血圧を著しく上昇させることがある133 。200 mg/day以下なら大丈夫だが、 200 mg/dayを越えると 5.5%に高血圧様の症状が現れる。 この副作用は用量依存性である。
モルモットによる実験では、venlafaxineは、心室の筋細胞のナトリウムの流れを阻害する。高用量ではQRS延長, 痙攣, 頻脈, 不整脈が生じる. venlafaxine は心臓に欠陥のある患者には使用すべきではない。

ミルナシプランによる血圧上昇はほとんどない。
頻脈 (心拍数>100/分)はミルナシプラン100 mg/day服用患者の 3% に、200 mg/dayの6%に起こる。適正量の28倍を過量摂取した場合にも、心毒性は認められなかった。
SNRIs in Overdose
高齢者では、うっかり高用量を服用してしまうことが稀ではなく起こる。したがって、抗うつ薬について考えるときには、過量摂取した場合の安全性も問題となる。
TCAs に比べ、SSRIsや SNRIsは致命的ではなく、安全である。

SSRIの過量摂取469例の報告からも、SSRIsは極めて安全なことがわかる。とはいっても痙攣や昏睡が1.9% 、2.4%に生じている。セロトニン症候群は14%。Citalopramの過量摂取ではQTc 延長(>440 msec) が68% 、しかしSSRIs単独であれば致命性はない。それよりもSSRIs ではMAOIなどの他の薬剤との併用で生じる、セロトニン症候群の方が致命的である。

Venlafaxineの過量摂取では、鎮静、洞性頻脈, 痙攣, 低血圧, 高血圧、diaphoresis, hyponatremia, and セロトニン症候群.146,147心房細動を引き起こしうるQTc延長などの不整脈も報告されている。.133 TCAs同様、これらはinfusion of sodium bicarbonateによるものである。133
しかしながら、venlafaxine (単独または他の薬との併用時)の過量摂取による死亡例の報告は、多くはセロトニン症候群によるものである148,149。

ミルナシプランには致命的な副作用はない。

Duloxetineの過量摂取に関するデータは、いまのところない

Conclusion
SNRIsには3種類あるが、現在データの蓄積があるのはvenlafaxineのみ。ほかの2種類については、少ないながら報告されたデータを見る限りではvenlafaxine とは非常に異なった性格を持つ薬であり、「同じSNRIs」とひとくくりにして理解するのは危険である。
(注:構造式が全く違う)
抗うつ効果という点では、venlafaxineのデータからは、SNRIs の方がSSRIs のようなsingle-action antidepressantsよりも、効果があるといえる。この傾向はミルナシプランとduloxetineのデータによっても支持される。TCAs, mirtazapineなどの他のdual-action antidepressants154の研究からも、dual actionの薬剤の方が、single-actionよりも効果があるという仮説と矛盾しない。

抗うつ薬の効果を計る目安としてうつ病 の改善度が使われるが、臨床的ではない。重症の患者は「50% の改善を得た」と表現されるだろうが、実際はまだ臨床上問題になるような症状が多く残ったままである。
症状が残ったままの患者は、そうでない患者に比べ3倍の確率で再発する156。現在の抗うつ薬に求められるのは、(中途半端な改善ではなく)完全で永続的な寛解である。このためには、うつ病に随伴する身体化症状や疼痛などのすべての症状に効果を発揮する抗うつ薬が開発されることである。

ほとんどの研究では、SSRIsは神経因性疼痛やうつ病の身体化によって生じる痛みに有効ではないと報告している。対称的に3種のSNRIsは慢性疼痛やうつ病の身体化によって生じる痛みに有効である。