SFD診断基準
疼痛性障害 Pain Disorder (注:コードは下位分類につけられる)
A.1つまたはそれ以上の解剖学的部位における疼痛が臨床像の中心を占めており,臨床的関与に値するほど重篤である
B.その疼痛は,臨床的に著しい苦痛または,社会的・職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
C.心理的要因が,疼痛の発症,重症度,悪化,または持続に重要な役割を果たしていると判断される
D.その症状または欠陥は,(虚偽性障害または詐病のように)意図的につくりだされたり捏造されたりしたものではない
E.疼痛は,気分障害,不安障害,精神病性障害ではうまく説明されないし,性交疼痛症の基準を満たさない
307・80 心理的要因と関連した疼痛性障害
心理的要因が,疼痛の発症,重症度,悪化,持続に重要な役割を果たしていると判断される
307.89心理的要因と一般身体疾患の両方に関連している疼痛性障害
心理的要因と一般身体疾患の両方が,疼痛の発症,重症度,悪化持続に重要な役割を果たしていると判断される
参考:心因性疼痛の診断と治療 (身体化を生じる精神疾患) ( pdf 276k)
*一般身体疾患と関連している疼痛性障害
一般身体疾患が,疼痛の発症,重症度,悪化,持続に重要な役割を果していると判断される
(疼痛には、307・80 、307.89、そして*の3種類がある。最初の2項目は疼痛性障害の下位分類であるが、*は身体疾患が原因の疼痛であるため、疼痛性障害からは除外される。したがって、この項目にはナンバーがふられていない。)
<解説>
身体表現性障害のうち、主訴が疼痛であるもの。口腔顔面痛外来を受診する身体表現性障害でもっとも多い。舌痛症の多くは、疼痛性障害と考えられる。器質的な原因がないからといって、弱い痛みだとは限らない。むしろ「激痛」であったり、「耐え難い痛み」と表現されることが多く、医科で三叉神経痛と診断され、テグレトールを服用した既往をもつ患者も多い。主訴が歯痛の場合は、口腔外科で、上顎洞炎の手術や骨髄の生検など、さまざまな外科処置を受けていることがある。
疼痛性障害が疑われる場合には、まず「身体化障害」を除外することが診断手順上重要である。「主訴が疼痛だが、身体化障害の診断基準を満たさないものが疼痛性障害」と考えてよい。
300.81 身体化障害 Somatization Disorder
A.30歳末満で始まった多数の身体的愁訴の病歴で,それは数年間にわたって持続しており,その結果治療を求め,または社会的,職業的 または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている.
B.以下の基準の各々を満たしたことがなければならず,個々の症状は障害の経過中のいずれかの時点で生じている.
(1)4つの疼痛症状:少なくとも4つの異なった部位または機能に関連した疼痛の病歴(例:頭部,腹部,背部,関節,四肢,胸部,直腸,月経時,性交時,または排尿時)
(2)2つの胃腸症状:疼痛以外の少なくとも2つの胃腸症状の病歴(例:嘔気,鼓腸,妊娠時以外の嘔吐,下痢,数種類の食物への不耐性)
(3)1つの性的症状:疼痛以外の少なくとも1つの性的または生殖器症状の病歴(例:性的無関心,勃起または射精機能不全,月経不順,月経過多,妊娠中を通じての嘔吐)
(4)1つの偽神経学的症状:疼痛に限らず,神経学的疾患を示唆する少なくとも1つの症状または欠損の病歴
(協調運動または平衡の障害,麻痺または部分的な脱力,嚥下困難または喉の塊,失声,尿閉,幻覚,触覚または痛覚の消失,複視,盲聾,けいれん,などのような転換症状,記憶喪失などの解離症状,失神以外の意識消失)
C.(1)または(2)
(1)適切な検索を行っても,基準Bの個々の症状は,既知の一般身体疾患または物質(例:乱用薬物,投薬)の直接的作用として十分説明できない
(2)関連する一般身体疾患がある場合,身体的愁訴または結果として生じている社会的,職業的障害が,既往歴,身体診察,または臨床検査所見から予測されるものをはるかに越えている.
D. 疼痛は,(虚偽性障害または詐病のように)意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない.
<解説>
身体のあちこちに身体化症状を訴えるもので、身体表現性障害の中で、診断基準がもっとも厳密である。疼痛性障害との鑑別を行うことが重要。
(症状が疼痛だけであれば、それが何カ所であっても疼痛性障害と診断する。)
疼痛が主訴の患者には、問診でまず、「他に痛いところはありませんか?」と切り出し、「4つの疼痛症状、2つの胃腸症状、1つの性的症状、1つの偽神経学的症状」の有無をチェックする必要がある。これらを満たす場合は、身体化障害である。
「喉の塊」は「ヒステリー球」とも呼ばれ、転換性障害でも問診で聴取する項目である。
「のどになにかが詰まったような感じ、または、のどが締め付けられるような感じがすることがありますか?」と訊ねる。
300.81 鑑別不能型身体表現性障害
Undifferentiated Somatoform Disorder
A.1つまたはそれ以上の身体的愁訴(例:倦怠感,食欲減退,胃腸系または泌尿系の愁訴)
B.(1)または(2)
(1)適切な検察を行っても,その症状は,既知の一般身体疾患または物質(例:乱用薬物,投薬)の直接的作用として十分に説明できない
(2)関連する一般身体疾患がある場合,身体的愁訴または結果として生じている社会的・職業的障害が,既往歴,身体診察,または臨床検査所見から予測されるものをはるかに越えている
C.症状が,臨床的に著しい苦痛または,社会的・職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
D.障害の持続期間は,少なくとも6か月である
E.その障害は,他の精神疾患(例:他の身体表現性障害,性障害,気分障害、不安障害、睡眠障害,または精神病性障害)ではうまく説明されない
F.症状は,(虚偽性障害または詐病のように)意図的につくりだされたり捏造されたりしたものではない
<解説>
疼痛以外の身体化症状が主訴であるが、身体化障害の診断基準を満たさないもの。
1つまたはそれ以上の身体的愁訴(例えば、倦怠感、食欲減退、胃腸系または泌尿系の愁訴など)が6ヵ月以上にわたって続いており、なおかつ患者は、その症状により、臨床的に著しい苦痛や、社会的・職業的に支障をきたしているものをいう。
歯科では、かみ合わせの異常を執拗に訴えるものがここに分類される。
(歯科医に、「かみ合わせが悪いため、全身に異常が生じる」と脅かされて、「自分が重篤な病気にかかる恐怖,または病気にかかっているという観念へのとらわれ」が生じている場合には、次の心気症に分類される。)
300.7 心気症
A.身体症状に対する患者の誤った解釈に基づき,自分が重篤な病気にかかる恐怖,または病気にかかっているという観念へのとらわれ
B.そのとらわれは,適切な医学的評価または保証にもかかわらず持続する
C.基準Aの確信は(妄想性障害,身体型のような)妄想的強固さがなく,(身体醜形障害のような)外見についての限られた心配に限定されていない
D.そのとらわれは,臨床的に著しい苦痛または,社会的・職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
E.障害の持続期間は,少なくとも6カ月である
F.そのとらわれは,全般性不安障害,強迫性障害,パニツク障害,大うつ病エピソード,分離不安,または他の身体表現性障害ではうまく説明されない
<解説>
歯科では、執拗にかみ合わせの異常感を訴えるものが多い。異常はないといわれると「そんなはずはない」と言って、ドクターショッピングを繰り返す。このような患者にあえて咬合治療を行うと、どのような治療を行っても満足が得られないため、訴訟に発展することもあるので注意が必要である。
300.11転換性障害 Conversion Disorder
A. 神経疾患または他の一般身体疾患を示唆する,随意運動機能または感覚機能を損なう1つまたはそれ以上の症状または欠陥.
B, 症状または欠陥の始まりまたは悪化に先立って葛藤や他のストレス因子が存在しており,心理的要因が関連していると判断される.
C,その症状または欠陥は(虚偽性障害または詐病のように)意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない.
D,その症状または欠陥は,適切な検索を行っても,一般身体疾患によっても,または物質の直接的な作用としても,または文化的に容認される行動または体験としても,十分に説明できない.
E,その症状または欠陥は,著しい苦痛または,社会的,職業的,または他の重要な領域の機能における障害を引き起こしている,または医学的評価を受けるに値する.
F,その症状または欠陥は,疼痛または性機能障害に限定されておらず,身体化障害の経過中にのみ起こってもおらず,他の精神疾患ではうまく説明されない.
症状または欠陥の病型を特定せよ:
*運動性の症状または欠陥を伴うもの:(例:協調運動または平衡の障害,麻痺または部分的脱力 嚥下困難または”喉の塊”,失声,尿閉)
*感覚性の症状または欠陥を伴うもの:(例:触覚または痛覚の消失,複視,盲,聾.幻覚)
*発作またはけいれんを伴うもの:(自発運動性または感覚性要素を伴った発作またはけいれんを含む)
*混合性症状を示すもの:2つ以上のカテゴリーの症状が明らかな場合
<解説>
歯科では、「運動性の症状または欠陥」として開口障害を生じるものがよく知られている。
しかしながら、家族の注意をひくためにかみ合わせの異常感を訴え、うんざりした家族に無視されると「めまいがして倒れる」というケースもあった。
300.7 身体醜形障害 Body Dysmorphic Disorder
A 外見についての想像上の欠陥へのとらわれ、小さい身体的異常が存在する場合、患者の心配は著しく過剰である
B.そのとらわれが、臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
C.そのとらわれは、他の精神疾患ではうまく説明されない(例:神経性無食欲症の体型およびサイズへの不満)
<解説>
自分の顔が歪んでいると訴えて、顎変形症外来で執拗にopeを希望することがある。このような患者にあえてopeを行っても、満足することはなく、訴訟に発展することもあるので注意が必要である。
300.81 特定不能の身体表現性障害
Somatoform Disorder Not Otherwise Specified
このカテゴリーは、どの特定の身体表現性障害の基準もみたさない身体表現性の症状を持つ障害を含む。