シカゴ大:SFD要点


要約Somatoform and related disorders

全文は以下のURLで見ることができます。
(シカゴ大学の講義で使用された資料だと思われます。)
http://psychclerk.bsd.uchicago.edu/lect_somatoform.html
Lecturer: Larry Goldman, M.D.
はじめに

Primary care physician(かかりつけ医)を受診する患者のうちの、少なくない割合が、医学的に説明不能な症状medically unexplained symptoms を訴える。 この中には、単にその原因となっている疾患を特定できないだけのものもあるが、多くは、患者自身の精神社会的ストレスを身体化somatized(身体化)したものであると考えられる。身体的な症状を訴える患者の10%が身体的な病気と断定できる証拠を特定できず、そしてPrimary care physicianの患者の約25%がある程度の somatization(身体化) であるという報告もある。
身体化が生じるプロセス(Somatization as a Process)
患者が、心理社会的問題を身体症状に変換して表出するのには、多くの理由がある。どの患者も発症に至るまでの経過には、以下の一つ以上の理由が存在しているのが普通である。

・ 社会的に孤立していたり、周囲とうまくやっていけない人間にとって、医療(身体的な治療を提供する場所)が社会的なサポートシステムの代替機関として機能している。

・ 職業、社交性あるいは性的な不完全さの言いわけとして、身体的な疾患を理由にすれば、社会的に受け入れられる。

・ 病気は他の人を自分の思いどおりに動かす手段となりうる。

・ 身体症状は「助けを求める叫び」でありうる。

・ ある種の精神疾患(大うつ病性障害やpanic disorder)は身体化を生じさせるため、身体的な病気と誤解される可能性がある。

・ 身体疾患は、精神疾患より非難されにくい。

・ 正常な身体の知覚を増幅させて、身体疾患のように自覚するヒトがいる。

・ 「病気の役割」は傷害保険金あるいは社会的責任の回避のような二次的な疾病利得secondary gainsをもたらし得る。

・ 小児期の身体的・性的traumaは、その人間に、コミュニケーションのために身体化症状を利用するような傾向をもたせる。

・ 小児期に、身体症状があれば親や他の人からかまってもらえることを学習したために現れた行動である可能性がある。

・ 「身体」疾患ばかりを過度に強調してトレーニングを受けてきた医師は、身体症状ばかりに気を取られ、患者の精神心理的な情報を無視しがちである。

somatization の全般的な治療は最も良くかかりつけの医者によって扱われるけれども、精神科への依頼も必要である。これらの状態は、自殺企図をにおわす患者、治療に反応しない抑うつ的な患者、身体醜形性障害、を持っている患者、自傷癖のあるfactitious illness患者などであり、症状によっては家族療法が必要となる。

精神科への依頼は、rapport が形成された後に行い、患者が紹介をただの厄介払いだと見なさないよう、かかりつけの医者が継続して治療を行うことを保証することが条件になるであろう。

鑑別診断(Differential Diagnostic Issues)
身体的な愁訴を表出している患者でも、鑑別診断では常に精神疾患を考慮する必要がある。精神疾患も他の疾患と同様に、考慮したり除外したりする必要がある(適切な問診や、精神状態の評価、必要であればlaboratory investigations)。

身体疾患を模倣する精神疾患はいくつかのカテゴリーに分類される:

・ 身体症状が突出しているもの (e.g., panic, depression, generalized anxiety)

・ よくある疾患の合併症状であるもの (e.g., 神経性食欲不振, 薬物誘発性疾患)

・ 幻覚や妄想を伴う精神疾患

・ 身体表現性障害

・ factitious disorders(虚偽性障害)

心理的要因が疾患に関係しているようにみえても、常に他の疾患である可能性を繰り返しチェックする謙虚な心構えが必要である。ある種の疾患では (狼瘡, 多発性硬化症, Lyme disease, and many others) はっきりしない身体・精神的症状が生じ、疾患の早期には診断が困難であり、後になってやっとはっきりするということがある。
治療原則(Treatment Principles)

1,身体化障害Somatization Disorder  (SD)(注、疼痛性障害との鑑別が必要)

SDの患者は、必ず常に、社会的、医学的、精神的な多くの問題を持っている。彼らは精神的な問題だとは思ってもいないので、通常のpsychotherapyは不向きである。彼らの治療は一般にPrimary care physicianの任務となる。 いくつかの治療原則を守れば、患者が医療機関を過剰に受診する傾向を減らせることが明らかにされた。治療のゴールの一つとして、不必要な救急外来受診や不必要な外科治療を防ぐことが上げられる。全般的な戦略としては、「治癒」を目指すのではなく、自覚症状を抑え、医原性の合併症を未然に防止することを旨とする。

・ 治療(投薬も)は1人の医者によって管理されるべきである。 コンサルタント(心理療法士)は、治療の責任を転嫁するのではなく、むしろアドバイスのために依頼する。 コンサルタントには、自分(医者)に患者の所見とsuggestionを伝えるように依頼すべきである。このことは、混乱とミスコミュニケーションを妨げるためにも、前もって患者に説明しておくべきである。

・ 患者には、病因が精神心理的なものであることを非難するのではなく、症状の病因の一般的な説明を行う。例えば、「あなたの痛みはすべてあなたの心理的状態から生じている」と言うのではなく、「ストレスがかかると、あなたの骨盤の痛みは悪化するようですね」と示唆して、ストレスと症状の関係に気づかせるようにする。

・ 診察は、規則的なスケジュールで診察を行い(例えば2-4週間ごと)、新しい症状が出たらその都(必要時)度診察することは避ける。このように計画的なサポートを行うことによって、患者の救急外来受診や不必要な検査・治療を、著明に減らすことができる。

・ 習慣性・依存性のあるな薬物は少量づつまた、客観的に必要と判断された場合にのみ使用する。

2,心気症Hypochondriasis:

心気症の患者の場合は、治療は長引き、しかもあまり改善が期待できない。どんな新規の症状も適切な問診による情報収集により評価し、検査は最小限にとどめるべきである。 侵襲的なdiagnostic/therapeutic procedures は客観的な所見により行うべきで、主観的訴えによって行ってはならない。客観的異常が認められない場合は (それが普通であるが)、患者に「特に重大な疾患は認められない」と安心させ、定期検診(通常1ヵ月後)をしましょうと伝える。医師は暖かく、患者のことを気にかけているという態度でいるべきで、恩着せがましくあるべきではない。 安心(保証)する事によって訴えが増加する患者には、異なったアプローチが必要である。保証よりも、このような大変な状態を耐え忍んでいることを誉めてやることで、もっと症状が改善する患者もいる。

徐々に個人情報を得ることは重要で、患者とのラポートを形成する必要がある。時とともに医者は患者が症状の出現を生活 のストレッサーや特定の感情的な状況と結び付けるのを手伝うことができるかもしれない。
3, 疼痛性障害(Pain Disorder:

他の身体表現性障害と同じように、疼痛性障害患者の治療の主要なゴールは、医原性の合併症を避けることである。これらの患者は「抗不安薬(いわゆる精神安定剤)」と鎮痛剤への依存の危険性があり、そしてしばしば外科的治療を受け入れるか、あるいは求めている。例えば顔面痛の患者は、多数の手術や歯科治療の既往をもっており、いずれの場合も長期的な疼痛緩和は得られていない。

管理の原則と方法は以下の通りである:

・ 患者が自分の行動に責任をち、どこかに患者の苦痛を取り除くことができる医師や薬・外科治療があるに違いないという過剰な期待を捨て去ることを教育する方法。

・ 疼痛緩和よりも社会復帰を、すなわち患者が痛みの強さにばかり気を取られず、普通の生活を取り戻すことの重要性を教育する。

・ 習慣性のある不必要な薬を止めさせる:もしその薬に効果があるはずなら、いつまでも服用していないはずである。

・ 客観的にみても麻薬性の鎮痛薬が必要な場合は(e.g. postoperatively)、頓服にせずに時間を決めて服用させるべきである。これによって、患者が薬を求める疼痛行動を強化することを防ぎ、患者と薬の量を減らそうとする医療者との間の摩擦を減らすことができる。

・ 合併する疾患(特にうつ)の治療を行う:うつがなくても三環系抗うつ薬(e.g., amitriptyline)は有効である。

・ National Football League)のように、人は「痛みがあってもプレーする」方法を学ばなくてはならない。

疼痛患者の管理は困難であり、家族も一緒に治療を受けなければならないことが多い。なぜなら家族は、知らず知らずのうちに患者の疼痛行動を強化するからである。多数の問題を包括的な方法で扱う必要のためにbehaviorally-oriented, multi-disciplinary pain clinic or programを必要とする患者もいる。