筋骨格性疼痛
深部体性痛deep somatic painに分類される。
疼痛の性状は「うずくようなaching、鈍痛dull、びまん性の」と表現される。
(英語では「dull-aching(ダル・エイキング)」と、二つを一気に言う。)
機能時や触診時圧痛によって増悪するのが特徴。
筋痛の種類(表1)
11.8 咀嚼筋障害
11.8.1筋筋膜痛
11.8.2筋炎
11.8.3筋スパズム
11.8.4局在性筋痛
11.8.5筋線維性拘縮
11.8.6新生物
口腔顔面痛で扱う頭頸部の筋骨格性疼痛に関する知識で重要なのは、以下の2項目
1, 筋筋膜痛とその関連痛
顎関節症専門医は11.8に含まれる咀嚼筋障害については、すべて特徴と診断法を知っている必要がある。しかしながら、この中でもっとも重要性と頻度が高く、また詳細な知識が必要なのは11.8.1の筋筋膜痛である。AAOPでは、筋の生理と筋筋膜痛の関連痛については、日本にいては想像できないくらい膨大な知識を持つことが要求されている。
2, 頸性疼痛Cervicalgia
頭部には重要な神経や血管が集中しており、これらの組織が障害されることによってこのような症状が生じることがある。それぞれの疾患(症状)の発生メカニズムと医科でのオーソドックスな治療法を知っている必要がある。
1、 筋筋膜痛とその関連痛
筋筋膜痛の特徴
1, 整形外科的・血清学的に異常所見が認められない
2, 筋の局所的な鈍痛
3, 筋中に索状硬結中が触知でき、その中に直径2-3mmのトリガーポイントが存在する
4, このTPを指圧することで、離れた部位に特定パターンの関連痛が発現する
5, 指圧や針の刺激で局所の筋の単収縮反応が認められる
6, TPに局所麻酔をすることで関連痛が60%消失する
TPと関連痛の要点
TPを理解する上で重要なのは、本態と形成メカニズム、活動性と潜在性の2種類があること、関連痛が生じるメカニズム、治療法です。
関連痛のメカニズム
site of painとsource of pain
* 投射収斂論(収束convergence)
トリガーポイントと関連痛に関する最重要テキスト
*「Myofascial pain and Dysfunction : The Trigger Point Manual (Vol.1)」
著者Janet G. Travel、David G. Simons
初版1983年。第2版1999年
*「Muscle Pain: Underatanding Its Nature, Diagnosis, and Treatment」
著者Siegfried Mense、David G. Simons
初版2001年
(2003年のAAOPでは、UCSF, UCLAの先生方から読むように勧められました。)
*「Myofascial pain and Dysfunction : The Trigger Point Manual (Vol.1)」
著者Janet G. Travel、David G. Simons(第2版1999年)の要点
A,咀嚼筋と頸部の筋
1. 咬筋
2. 側頭筋
3. 内側翼突筋
4. 外側翼突筋
B,頸部の筋
5. 顎二腹筋
6. 胸鎖乳突筋
7. 斜角筋 Scalene Muscles
C, 背部の筋 muscli dorsi (Muscles of the back)
8. 僧帽筋
9. 肩甲挙筋
10.頭板状筋 splenius capitis
11.頸板状筋 splenius cervicis
12.頭半棘筋Semispinalis Capitis
深項筋=後頭下筋群
後頭下三角Suboccipital triangle
A,咀嚼筋と頸部の筋
神経支配:三叉神経第3枝
作用:下顎挙上、深部筋は下顎の後退を補助する。
関連痛
浅部は、歯とsinus相当部、下顎骨に関連痛を生じさせるため、患者は上顎洞部の痛みと誤認することがある。実際に「頬骨が痛い」と表現した患者もいる。
開口障害は、咬筋深部より浅部にactiveTPがあるときに生じやすい。
深部は、耳の奥と顎関節領域に関連痛を生じさせるため、患者は耳の痛みや顎関節の痛み、頬部のびまん性の痛みと訴える。片側の咬筋深部上後方にTpがあると、内耳の鼓膜張筋・あぶみ骨筋との間に感覚神経・運動神経の関連を生じて片側の耳鳴を生じる可能性がある。もし耳鳴が両側性である場合には、関連痛ではなく全身性の疾患を疑うべきである。
tensor tympani muscle鼓膜張筋(起始:耳管(Eustachio管)の軟骨部分と骨部の真上の半管壁.停止:つち骨柄の底部.神経支配:耳神経節を通る三叉神経枝(鼓膜張筋神経).作用:つち骨柄を内側に引き,鼓膜を緊張させて大きな音による過度の振動から守っている)
神経支配:三叉神経第3枝
作用:下顎挙上
後部筋束は、両側の収縮では下顎の後退を、片側では下顎を同側に偏位させる
関連痛
側頭筋の関連痛は、側頭部、眉部、眼球の後方、上顎歯全てと上部顔面痛を生じさせる。特に側頭部の関連痛は頭痛として自覚されるため、緊張型頭痛の原因と考えられている。
神経支配:三叉神経第3枝
作用:下顎挙上
片側の収縮は下顎の反対側偏位を生じる
関連痛
顎関節部や咽頭、下顎内側~後方部に関連痛を生じさせる。歯には生じない。随伴症状として耳閉感が発現することがある。
内側翼突筋の筋筋膜痛では、患者は疼痛部位として咬筋部を示すことがあるが、実際は下顎骨内側に疼痛が生じているので、注意が必要。内側翼突筋は閉口筋であるため、理論的には下顎前歯に負荷をかけて閉口させると、下顎骨内側の疼痛が増悪することで、咬筋と鑑別する。
*神経の絞扼entrapment
この部を走行する舌神経の鼓索神経が、内側翼突筋の過収縮によってentrapmentを生じると、非常に苦い金属味が生じることがある。
4、外側翼突筋
神経支配:三叉神経第3枝
作用: 上頭:単なるスタビライザー
下頭:両側の収縮は下顎の前突と開口、片側では下顎の反対側への偏位を生じる
関連痛
上顎洞部と顎関節に関連痛を生じます。特に顎関節の関連痛は「強い痛み」と感じられることが多いため、関節性の顎関節症と誤認されることがある。
簡単な鑑別法としては、顎関節の疼痛が関連痛で生じている場合には疼痛は瀰漫性で漠然としており、顎関節が原因の場合は、疼痛領域が限局していて、より鋭い痛みであることに注意する。診断的麻酔を使う方法もある。
*神経の絞扼entrapment
三叉神経第三枝の頬神経が上下頭の間でentrapmentを起こすことがある。この場合は、頬筋の脱力感や感覚異常paresthesiaが生じる。
B,頸部の筋
頸部の筋で重要なのは、胸鎖乳突筋、顎二腹筋、斜角筋。
斜角筋が頭頸部の痛みの診断において重要とされる理由は、関連痛ではなく、その解剖学的特殊性により、肩や腕にさまざまな症状を引き起こす可能性があるから。
神経支配:前腹が三叉神経、後腹は顔面神経(CN-VII)に支配されています。
作用: 下顎を固定したときには舌骨を挙上。舌骨を固定したときには下顎骨を引き下げる。
関連痛
前腹は下顎4前歯の歯や歯槽骨の痛み、舌の痛みを生じさせる。
後腹はのどがつまった感じや嚥下困難感として感じられる。また、胸鎖乳突筋上部に関連痛を生じさせるため、偽胸鎖乳突筋痛pseudo-SCM painとして自覚されることがある。
6、胸鎖乳突筋(図F)
胸鎖乳突筋は浅部の胸骨枝sternal divisionと深部の鎖骨枝clavicular divisionからなっており、それぞれのTPを覚える必要がある。
神経支配 副神経(CN-XI)と第2、3頸神経(C2, C3)
作用
収縮側へ頭部を屈曲させ、反対側へ回転させる。たとえば、右側SCMの収縮は、頭部を右側へ屈曲させ、左へ回転させる。(5章、ジストニー患者の写真を参照)
関連痛
耳の痛みや頭痛(緊張型頭痛・頭頂部の痛み)として感じられます。鎖骨枝の関連痛は正中を越えて前額部に広がるのが特徴で、「前頭部の頭痛」として感じられる。
胸骨枝(浅部)
下部 胸骨の痛み
中部 目の周囲と顔面半側の顔面痛、のどの痛み
上部 後頭部の痛みで緊張型頭痛として自覚される。
鎖骨枝(深部)
中部 前頭部(正中を越えることもある)
上部 耳の深部痛、顎関節前部
臨床的には、顎下リンパ節の痛みや腫脹と間違えることがあるので、注意が必要。また、症状がひどくなると患側に頸が傾いたり、首の回転を妨げることがある。
神経支配:頸神経
作用
肋骨を引き下げて胸郭を広げる作用を司る吸息筋。その他、頸椎を横に倒す作用もある。
ポイント
前・中斜角筋は第一肋骨との上に斜角筋裂(隙)と呼ばれる間隙を形成し、上肢にゆく腕神経叢と鎖骨下動脈がここを通過する。斜角筋の異常でこの隙を通過する血管・神経幹が圧迫されると疼痛、知覚異常、麻痺、筋萎縮など、「斜角筋症候群」または「胸郭出口症候群」と呼ばれる多様な臨床症状が生じる。
前斜角筋:起始C3-C6の横突起 停止第一肋骨
中斜角筋:起始C2-C7の横突起 停止第一肋骨
後斜角筋:起始C5-C7の横突起 停止第二肋骨
最小斜角筋:起始C6-C7の横突起 停止第一肋骨
C, 背部の筋 muscli dorsi (Muscles of the back)
僧帽筋に起因する痛み(4つ覚えること)
1、 下顎角部に関連痛を生じさせる
2、 関連痛により緊張型頭痛が生じる
3、 第2頸神経の絞扼によって後頭神経痛が生じる
4、 肩や後頸部の痛み、こりの原因となる
神経支配:副神経(CN-XI)と頸神経
作用:左右の肩甲骨を脊柱に近づける(胸を張る)
上方部のみの収縮では肩甲骨が挙上される(肩をすくめる)
下方のみの収縮は、肩を下げる
関連痛
上行部
TP1:僧帽筋の前縁、垂直上方に向かう筋中に存在
首の後側方部、耳の後
側頭部に緊張型頭痛に似た症状を引き起こしうる
下顎角部に疼痛を生じさせる
TP2:TP1の下外側の水平な筋束中に存在
*entrapment:大後頭神経
* C2は頭半棘筋と僧帽筋を貫いて表面に出る。僧帽筋そのものがC2を絞扼すると言うよりは頭半棘筋で起こる筋収縮に寄与していると考えられている。
9、肩甲挙筋(図I)
神経支配:腕神経叢筋枝(肩甲背神経)
作用:頸が固定されているときには肩甲骨を上内方に引き(いわゆる肩をすくめる状態)、肩甲骨が固定されているときには、頸を同側に曲げる。
したがって、歯科医が患者を治療をする際の独特の姿勢でこの筋を痛めることがよくある。
関連痛
肩と首の付け根から肩甲骨上部にかけて生じるため、肩の痛み・肩こりとして感じられる。
神経支配:頸神経後枝
作用:片側が収縮すると頭部はその方向に回転する
両側が同時に収縮すると頭頸部は後屈する
関連痛 TPはC2付近(椎骨動脈が出てくる部位のやや下方)に発現し、頭頂部に関連痛を生じます。
上位頚椎に付着する筋です。肩、頭部、目の痛みを生じる可能性のある筋です。
神経支配:頸神経後枝
作用:片側が収縮すると頭部はその方向に回転する
両側が同時に収縮すると頭頸部は後屈する
関連痛 後頭部から目の後方に走る痛み
神経支配:
作用:頭部を後屈させる
関連痛:頭部前方半周をバンドで締め付けるような痛みで、こめかみに強い痛みを生じます。後頭部から目の後方に走る痛みとして感じられます。
entrapment大後頭神経
大後頭神経は頭半棘筋と僧帽筋を貫いて皮下へ出る
僧帽筋か頭半棘筋へのTPIで改善する。
深項筋=後頭下筋群
項の再深部にある数対の小さな筋群です。後頭部から眼窩部へ関連痛を生じさせるため、患者は「頭痛」と自覚する。
作用
頭部を回転させる環軸関節の動きをcontrolし、頭部を直立位に保持する。また、頭部の後屈と回転に協力する
関連痛
後頭部から眼窩部へ関連痛を生じさせる。
後頭下三角Suboccipital triangle
大後頭直筋と上・下頭斜筋は後頭下三角を形成する。
この中には椎骨動脈や第1頸神経(C1)が存在するので、トリガーポイントインジェクションの際には要注意である。
大後頭直筋 軸椎(棘突起)→後頭骨
小後頭直筋 環椎(後結節)→後頭骨
上頭斜筋 環椎(横突起)→後頭骨
下頭斜筋 軸椎(棘突起)→環椎