口腔内セネストパチー(cenesthopathy)
定義
- セネストパチー=「常に違和感を感じ,言葉で説明しきれず,痛みというより不快である」という基本特性と,「発病当初に認められた部位と性状がいつまでも優勢である」という限局性および持続性との2 つによって定義づけられる。患者は奇妙で,神経学的合致を認めず,非常に執拗に症状を訴える傾向が強く,その異常感覚は,正確に表現しようと努力する結果,しばしば痛みとして表現してペインクリニックを受診することがある。(A)
- 他覚的に明らかな異常所見を認めないにもかかわらず,口腔内の異常感を奇妙な表現で訴える症状をセネストパチー症状と呼ぶ.(B)
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単なる痛みや痒みなどの感覚ではなく,身体医学的に理解することができない奇妙な「感覚」と身体の「変容」の確信に基づいた訴えを執拗に繰り返し,そのための身体的治療を執拗に求めること(A)
命名・狭義のセネストパチー(文献A,B)
- セネストパチーは,統合失調症,うつ病,脳器質性疾患などの一症状としてみられる広義のセネストパチーと,他の精神疾患の症状をほとんど伴わず,単一症状として現れる狭義のセネストパチーに分類される.
- 狭義の場合は,セネストパチーという用語を症状名ではなく,疾患概念,あるいは臨床単位として用いることになり,体感症という訳語を用いることが多い.
- セネストパチーという用語を最初に用いたのは,Dupré とCamus(1907)である。彼らはセネストパチーを,セネステジーの異常であるとした.セネステジーとは,体感,全感覚,内臓感覚,一般感覚などといわれているもので,通常はっきりと意識にのぼらせているものではなく,異常が問題となって初めてその存在が意識されると理解される
*セネステジー=内的・共通感覚
*セネストパチー=セネステジーを障害する疾患
- セネストパチーは,DSM-IV(1994)2」においては「妄想性障害,身体型」に,ICD-10(1992)でも「妄想性障害」に分類される。
特徴(保崎 1959,1960)
・50歳前後で発症.
・身体所見を認めることがある(高血圧,動脈硬化,気軽写での脳室拡大と脳萎縮).
・発病前後に他科,とくに歯科で抜歯を受けている症例が多い.
・発病は徐々で経過は慢性である.
・症状は上半身,とくに口中に関するものが多い.全身に及ぶ例でも上半身より始まったものが多い.
・異常感に対する確信は強い.
・異常対象物を見ようと努力する.
・症状に対する批判は保たれているが,極期には一時的にとらわれることが多い.
・本症状以外に異常体験を認めない.
・治療はほとんど無効であり,効くとしても一時的である.
治療
アリピプラゾール(杉浦,2008)
ペロスピロン(梶谷康介2008)
参考文献
A:「非定型抗精神病薬の投与が奏効したセネストパチーの治療経験」手塚薫子、慢性疼痛 Vo.29 No1. 2010
B:「高齢者の口腔内セネストパチー」老年精神医学雑誌 第20巻第2号 2009.2 宮地英雄、和気裕之ほか
C:「慢性体感幻覚症について」保崎秀夫,高橋芳和,中村稀明ほか 精神医学,1:391-396(1959)
D:「セネストパチーとその周辺」保崎秀夫 精神医学,2:325-332(1960)
E:杉浦寛奈,都甲崇, 山本かおり 他: アリピプラゾールが奏効したセネストパチー(妄想性障害)の1 例.精神医学 50: 449-452, 2008
F:梶谷康介, 佐々木裕光, 神庭重信:Lithium carbonate とperospirone の併用が奏効した口腔内セネストパチーの1 症例.精神科治療学 23: 497-501,2008