頭痛の基礎知識

1、国際頭痛分類(ICHD-II)
頭頭痛の分類と診断基準について、現在国際的なスタンダードとされているのは、国際頭痛学会(International Headache Society:IHS)の「国際頭痛分類第2版(ICHD-II, 2005)」です。これは首から上に頭痛を生じさせる疾患を3部、14タイプに分類したもので、顎関節症(11.7)や三叉神経痛(13.1)なども含まれています。口腔顔面痛で扱う疾患のほとんどはこの分類に含まれています。  下記詳細今ではTMD専門医もこの分類を知っている必要があると考えられています。

2、「一次性頭痛」と「二次性頭痛」、「頭部神経痛」ICHD-II分類では、頭痛は大きく「第1部、一次性頭痛」と「第2部、二次性性頭痛」「第3部、頭部神経痛、中枢性・一次性顔面痛およびその他」の3種類に分類されています。「一次性頭痛」はいわゆる「頭痛もちの頭痛」で命に別状はありません。「二次性頭痛」はなにか他の原因があって頭痛が生じるもので、くも膜下出血や脳腫瘍などの致命的な疾患も含まれています。顎関節症(11.7)は二次性頭痛に分類されます。また、歯科医が臨床でよく遭遇する発作性神経痛(三叉神経痛・舌咽神経痛)は、第3部の「頭部神経痛、中枢性・一次性顔面痛およびその他」中に分類されています。
3、機能性頭痛は3種類(片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛)を覚えること
顎関節症専門医はこの3種類の鑑別ができなければいけない

間中信也先生(*コラム)が「頭痛3兄弟」と呼んでおられるように、主な機能性頭痛は大きく3つに分類されます。片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛です。機能性頭痛の勉強をするときに大事なのは、診断基準と大まかなメカニズム、そしてそれぞれの治療法(特に薬物療法)を把握することです。

片頭痛は、脳の硬膜の血管の一過性の炎症で、血管が腫れるために生じます。したがって疼痛は拍動性で、体を動かすと頭痛は猛烈に増悪することと、悪心嘔吐を伴うのが特徴です。

緊張型頭痛は、頭蓋周辺の筋がこって生じる、筋肉性の頭痛です。顎関節症と合併する頭痛は、ほとんどが緊張型頭痛です。肩こりを合併することも多く、片頭痛と違って頸をぐるぐる回すことで循環が改善し痛みが和らぐのが特徴です。

群発頭痛は、内頸動脈に一過性の炎症が生じて、血管が腫れるためにおこります。目の奥の激痛として自覚されることが多いのですが、上顎大臼歯部に痛みを感じる患者も多く、歯科で抜歯を受けていることが多いので有名です。歯科医が必ず知っていなければならない頭痛です。

4、一次性頭痛の診断法

3種類の一次性頭痛は、それぞれはっきりした特徴をもっています。以下の「痛みの評価法」の8項目を順番にカルテに記載していくだけで、歯科医師でも大まかな診断を行うことが可能です。もちろん、臨床ではいつも典型的なものばかりとは限りませんが、その場合は頭痛専門医に依頼すればよいでしょう。

痛みの評価法

■ Location(部位)
■ Quality(性状)
■ Intensity(強さ)
■ Duration(持続時間)
■ Frequency(頻度)
■ Aggravating factor(増悪因子)
■ Alleviating factor(改善因子)
■ Behavior(発作中の行動)

強さ、持続時間、頻度は、その場で質問しても患者がとまどうことも多いので、専門医は「頭痛日記 headache diary」を使って1か月ほど記録してもらい、それをもとに様々な判断をすることが多いです。

5,一次性頭痛の薬物療法には2段構えで行う

機能性頭痛の薬物療法は、予防療法と頓挫療法に大別されます。発作回数が多い場合には、発作が起こらないように予防する薬を処方します(予防療法)。逆に、発作がたまにしか起こらない場合は、発作が起きた段階で疼痛を止める治療を行えばよいという発想で、頓挫薬を処方します(頓挫療法)。通常は、両方を併用します。

6,歯科医が知っているべき「二次性頭痛」と「頭部神経痛」

二次性頭痛や頭部神経痛の中には、頭痛というよりは「顔面痛」を引き起こすような疾患が含まれており、臨床的には「歯痛」や「顎関節症(痛)」のように見える物があります。無用な歯科治療を行わないためにも、診断基準をよく知り、鑑別が行える必要があります。以下に患者が歯科を受診した場合の訴えと簡単な解説を記します。
*「二次性頭痛」

6.4.1 側頭動脈炎:高齢の患者。数週間前から、側頭部や咬筋部に咀嚼時痛が発現し、開口障害も生じるようになった。顎関節症と診断し、スプリント治療で経過を見ているが疼痛は改善しない。全身倦怠感も訴えている。→これも顎関節症そっくりの症状を呈しますが、内科的救急治療を要する要注意疾患です。スプリントなどで時間を無駄にすると、眼動脈の閉塞をきたして失明することがあります。

8.2 薬物乱用頭痛: 連日性の持続性頭痛と顔面痛のため、“顎関節症の疑い”で依頼された患者。数ヶ月前から市販の鎮痛薬を毎日服用しているが、効果がない。→頭痛持ちの人が、毎日(月10日以上)頭痛薬を飲むようになると、逆に連日性の頭痛や顔面痛が生じるようになります。顎関節症と誤認されてスプリント治療が行われていることがありますので、「毎日鎮痛剤を飲んでいませんか?」と問診する必要があります。

11.5副鼻腔炎による頭痛
急性上顎洞炎:数日前から上顎の歯(小臼歯または大臼歯)に、歯痛様の強い痛みが生じている。風邪をひいていて、鼻が詰まり、頭痛もする。頬部には強い圧痛がある。→頻度も高く、歯科医にはよく知られている「歯痛」です。それでも抜髄されてしまうことがあります。

13.15.1 急性帯状疱疹による頭痛または顔面痛
帯状疱疹による歯痛顔面痛:健全歯に突然歯髄炎様の激痛が生じ、夜も眠れないため、抜髄をしたが痛みが止まらない。熱発して、顎下リンパ節も腫れてきた。→病初期に診断して、早急に抗ウィルス薬を開始する必要があります。
*「頭部神経痛」
13.1 三叉神経痛: 「顔面の特定の場所に、瞬間的な激痛が生じ、洗面や歯磨き、髭剃りができない」「歯が“ツーン”としみる」と訴える。→臨床で遭遇する頻度が高い口腔顔面痛疾患であるにもかかわらず、歯科医の誤診がもっとも多く、抜髄や抜歯が行われていることが多い疾患です。

13.2 舌咽神経痛:大開口時や食事時に、顎関節部や耳の奧に瞬間的な激痛が生じる。顎関節症にしては、疼痛が強烈すぎる気がする。→三叉神経痛の兄弟分の神経痛です。稀な疾患ですが、遭遇した場合には、歯科医であればまず間違いなく顎関節症と誤診してしまいます。

13.18.2 中枢性卒中後痛
視床痛:脳卒中の後、下顎や舌に熱湯をかけられたような「ひりひり」「びりびり」する痛みが、間断なく生じるようになった。→痛みの中継点である視床に出血や梗塞が生じたことによる後遺症で、中枢性の神経痛の一種です


頭痛概論(IHS分類・詳細)

口腔顔面痛とは特定の疾患の名称ではなく、文字通り口腔と顔面部に発現する疼痛(症状)をいいます。Liptonらの報告によれば人口の22%は過去6か月以内に口腔顔面痛を経験しているとのことですから、その患者数が膨大であることは想像に難くありません。この数字のうちの半数は歯痛ですが、残りは顎関節症やある種の頭痛、他の医科的疾患に起因する疼痛です。顔面という狭い領域に発現する痛みの中には、痛みの部位が特定しにくいものも多く、歯科医によって歯痛や顎関節症と誤診されて不必要・不適切な治療を受けるといったケースも少なくありません。このような混乱を避けるためには、患者が歯科を受診する可能性のある疾患を知っている必要があります。

米国口腔顔面痛学会の専門医たちがよく引用する言葉に、「知らない病気は診断できない」と「自分のヤブを患者のせいにしてはいけない(“だって患者が歯が痛いって言ったんだもん”・・という言い訳は通用しない)」があります。歯科医は歯痛・顎関節症と誤診する可能性のある口腔顔面痛疾患を知っていなければなりません。

口腔顔面痛を呈する疾患の多くは、国際頭痛学会(IHS)によりきちんと分類され、明確な診断基準も記されていますので、今回はこの分類に沿って実際に歯科を受診した症例を提示しながら各疾患を解説していきたいと思います。

*ゴチックは歯科医が知っているべき疾患です。

国際頭痛学会分類(1988)

1.片頭痛(顔面片頭痛)

           1.1前兆を伴うもの

           1.2前兆を伴わないもの

2.緊張型頭痛

(急性・慢性・頭部筋群の異常を伴うもの・伴わないものの考え方)

           2.1反復発作性緊張型頭痛

2.1.1 頭部筋群の異常を伴う反復発作性緊張型頭痛 

2.1.2 頭部筋群の異常を伴わない反復発作性緊張型頭痛 

2.2慢性緊張型頭痛

2.2.1 頭部筋群の異常を伴う慢性緊張型頭痛 

2.2.2 頭部筋群の異常を伴わない緊張型頭痛

          

3.群発頭痛および慢性発作性片側頭痛(CPH)

(疼痛部位が眼窩から上顎第二大臼歯部にかけてであるため、患者の半数は歯科を受診し、抜歯を受けていることが多い)

4.その他

症候性頭痛

5.頭部外傷

6.血管障害に伴う頭痛

6.3      くも膜下出血(代表的な「命にかかわる頭痛」)

6.5 巨細胞性動脈炎(顎の痛みが主訴となることも多く、顎関節症と間違えられることがあるが、治療が遅れると失明する)

7.脳腫瘍など頭蓋内疾患

8.原因物質あるいはその離脱に伴う頭痛

8.2       原因物質の慢性摂取または暴露による頭痛

8.2.1        エルゴタミンによる頭痛

8.2.2      鎮痛薬乱用による頭痛(顔面痛を呈するため顎関節症と間違えられるが、治療に全く反応しない。知っていさえすれば対応可能な疾患。)

8.3       原因物質離脱頭痛 (急性使用)

8.3.1 アルコール離脱頭痛(二日酔い)

9.頭部以外の感染症に伴う頭痛

9.2 細菌感染症(髄膜炎)(歯性感染から生じうる重篤な疾患。

歯痛を訴えていた患者が、激しい頭痛を訴え始めてやっと気づくことがある。一刻を争う致命的な疾患。)

10.代謝障害

11.頭蓋骨,頚,眼,耳,鼻、副鼻腔,歯,口あるいは他の顔面・頭蓋組織に起因する頭痛あるいは顔面痛

11.5 鼻および副鼻腔

11.5.1 急性副鼻腔炎(いわゆるSinus Headacheとして、米国では一般の人にもよく知られている疾患。頭痛・顔面痛・歯痛を呈するため、患者は三叉神経痛の治療や抜髄を受けていることも多い。頻度が高いので、知っている必要がある。)

11.7 顎関節の疾患

12.神経痛

そのほか

13.分類できない頭痛


2002抄録イブニングセミナー第三回口腔顔面痛懇談会 「2時間でマスターする歯科医に必要な頭痛の知識」より