発作性:三叉神経痛、舌咽神経痛
1)三叉神経痛:Trigeminal Neuralgia (TGN)
定義 三叉神経の一つまたはそれ以上の枝の支配部に生じる短時間の電撃様疼痛で、顔面の片側に生じるもの (IASH committee)
ICHD-3βの 典型的三叉神経痛(13.1.1)の診断基準
典型的=一次性=三叉神経に対する血管による圧迫以外に明らかな原因がなく発症した三叉神経痛のこと。
A.B とC を満たす片側顔面痛発作が3 回以上ある
B.三叉神経枝の支配領域(2 枝領域以上に及ぶことあり)に生じ,三叉神経領域を越えて広がらない痛み
C.痛みは以下の4 つの特徴のうち少なくとも3つの特徴をもつ
- 数分の1 秒〜2 分間持続する発作性の痛みを繰り返す
- 激痛
- 電気ショックのような,ズキンとするような,突き刺すような,あるいは,鋭いと表現される痛みの性質
- 患側の顔面への非侵害刺激により突発する(注1)
D.臨床的に明白な神経障害は存在しない(注2)
E.ほかに最適なICHD-3 の診断がない
特徴 年間10万人に4人 3000人のTN患者の内、症候性のものは1割、300人、 症候性のもののうち半数はCTやMRIでdetectされる 数週間から数ヶ月の発作期間とそれに続くremission period(数ヶ月から数年) 50%にtrigger zoneがある Tic douloureuxという顔面筋の痙攣を伴うこともある Secondary excitatory effectは伴わない
前三叉神経痛
- Pre-trigeminal neuralgia.Fromm GH, Graff-Radford SB, Terrence CF, Sweet WH. Neurology. 1990 Oct;40(10):1493-5.
二次性三叉神経痛
多発性硬化症による症候性三叉神経痛患者(15名)と典型的三叉神経痛患者(13名):鑑別点は発症年齢。典型的TGNは43.4歳,多発性硬化症による症候性TGNは59.6歳とやや高かった.
- A clinical comparison of trigeminal neuralgic pain in patients with and without underlying multiple sclerosis,De Simone R,Marano E,Brescia Morra V,Ranieri A,Ripa P,Esposito M,Vacca G,Bonavita V, Neurol Sci 26 Suppl 2:s150-s151,2005.
聴神経鞘腫:左側の歯痛,顎部,外耳道,頬部,上下口唇,舌根部,食道部に痛みが出現
- 目で見るページ 左側の歯・口唇・頬・顎・耳・舌および食道部痛を呈し診断に難渋した1症例(図説), 啓嗣郎(日本臨床内科医会)日本臨床内科医会会誌 (0914-9627)25巻2号 Page187(2010.09)
2.舌咽神経痛:Grossopharingeal Neuralgia (GPN)
舌咽神経痛(第IX脳神経痛)の臨床像はTMDに酷似している。 内科を受診するGPN患者の主訴は嚥下時痛であるのに対し、歯科を受診する患者は「大開口時痛」であることが多い。
ICHD-3βの舌咽神経痛の診断基準
A.B およびC を満たす片側性の痛み発作が少なくとも3 回ある
B.痛みは舌の後部,扁桃窩,咽頭,下顎角直下または耳のいずれか1 つ以上の部位に分布する
C.痛みは以下の4 つの特徴のうち少なくとも3項目を満たす
- 数秒〜2 分持続する痛み発作を繰り返す
- 激痛
- ズキンとするような,刺すような,あるいは鋭い痛み
- 嚥下,咳,会話またはあくびで誘発される
D.明らかな神経学的欠損がないE.ほかに最適なICHD-3 の診断がない
特徴 性状:数秒間の電撃様疼痛
部位:舌咽神経の支配領域である舌後方1/3、耳(鼓膜に分布)、下顎角、咽頭部にかけて発現(このため患者は、「(下)顎が痛い」と自覚する。)
誘発因子 1)顎運動(あくび、嚥下)=患者は「大きく口を開けると痛い」と訴える 2)味刺激(酸味や冷水)=「食事をすると顎が痛い」とも訴える 嚥下・顎運動・味刺激で激烈な疼痛が生じるため、患者はいっさいの飲食を拒否することがある *解剖学的に迷走神経に近いため発作時に失神・心停止などの迷走神経症状を伴うことがある
鑑別診断(疼痛消失/誘発テスト) 疼痛消失試験 表面麻酔剤(8%キシロカインスプレー)を咽頭部と舌の後方1/3に噴霧し、疼痛発作が生じなくなることで診断する・ 疼痛誘発試験 舌咽神経の支配領域である舌の後方1/3に酢を塗布して発作が生じることで確認する。