筋痛と関連痛

Myofascial Pain and The Management of Trigger Points (TPs)

OFP専門医は、原則的にまずTMDの専門医であるため、
Myofascial PainとTPsの治療法を熟知している必要があります。
この項目に関するテキストは「Myofascial pain and Dysfunction : The Trigger Point Manual (Vol.1)*」です。
これはOFP専門医の必読書で、本書を所蔵していない専門医はいないといっても過言ではありません。
認定位試験を受験される方には、特に重要な参考書です。
また、頭蓋顔面部の疼痛は、V, VII, IX, X, C1-C3と自律神経からの直接入力や頸神経からの関連痛で生じうるため、
TPと一緒にcervicalの勉強もしておく必要があります。
(”The Cervical Spine”の項を参照)
* 「Myofascial pain and Dysfunction : The Trigger Point Manual (Vol.1)」
著者Janet G. Travel、David G. Simons
初版1983年。第2版が1999年に出版されています。
ここでは初版を参考にし、chapterに沿って解説していきます。
―総論―Chapter 3 Apropos of All Muscles

3章は、TP injectionのhow toに関する総論です。
TPIの基本ですから、ここはきちんと読んで勉強しておく必要があります。―――――――――――――――――――――
Trigger Point: muscle spindleのintrafusal fiberの中にあるという報告がある
Active Trigger Point; central excitatory effects、関連痛を生じる
Latent Trigger Point; 触診に過敏ではなく関連痛は生じない
Trigger Pointは治療をしないと消失しないと考えられている
Local Twitch Response (LTR)
圧迫や針の刺入により筋が収縮する現象。(EMGでも観察可能)
肉眼ではっきり観察される現象であるため、
初めて見る人は、神経を穿刺してしまったのではないかと心配するくらいだが、
LTRが観察されたということは、正確にTPをhitしたという証拠と考えてよい。
Jump Signと混同しないように注意
Jump Sign TPを圧迫した際に、痛みのため患者が「キャッ」と飛び上がる現象
Taut bandは直径1-4mmのコードのように感じられる
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Trigger Point Therapy
I) Spray-and-Stretch Technique
Vapocoolant sprayを
皮膚から30-50-cm(12-18 inch)離し、
角度30度で、
TrPからreference zoneに向けて、
一方向に1秒間に10 cm (4 inch)の速さで動かす。
II) Trigger Point Injection
針によってTrPを壊すことが目的
針は、1-2 inchの長さで、
21Gより太くてはいけないし、
25Gより細くてもいけない
Carbocain 3%、0.5%のプロカイン
骨膜を傷つけない
筋がexpandするのを待つためゆっくり注入する
―各論―

以下は各論です。
TPと関連痛(referred pain)の発現部位の関係を、
筋ごとにしっかり把握しておくことが必要です。
また、過緊張を生じた筋に、
その部を通過する神経が圧迫されて様々な障害が生じることが知られています。
これをENTRAPMENTといい、OFPを学ぶ上では非常に重要な概念です。
腕神経叢は斜角筋scalenusによるentrapmentを起こしやすいことは重要です。
各論のポイント
* 耳にreferred painを生じうるもの:
SCM (clavicular division),
masseterのdeep layer
*TMJにreferred painを生じうるもの:
lateral & medial pterygoid
*正中を超えて反対側にreferred painを生じうるもの:
SCM (clavicular division)
*TTH(緊張型頭痛)を生じうるもの:
SCM, Trapezius
●Chapter 6 Trapezius Muscle (Trap)

TTHの主な原因
Upper, middle, lowerの3つにわけられ、referred painはupperから生じる
●Chapter 7 Sternocleidomastoid Muscle (SCM)

SCMは、収縮側へ頭部を屈曲させ、反対側へ回転させる。
たとえば、右側SCMの収縮は、頭部を右側へ屈曲させ、左へ回転させる。
SCMは、sternal(Superficial) divisionとclavicular (deep) divisionから構成される。
耳と耳の前後方部にreferする。
TTHも生じる。関連痛は正中を越えて(cross reference)前額部に広がる。
Sternal division(浅部:sternum胸骨に付着)
下部 胸骨の痛み
中部 目の周囲と顔面半側atypical facial neuralgiaのような痛み、sore throat
上部 後頭部(TTHとして自覚される)
clavicular division(深部)
中部 前頭部(正中を越えることもある)
上部 耳の深部痛、顎関節前部
●Chapter 8 Masseter Muscle

Superficial Layer;歯とsinus相当部に関連痛
(患者はsinusの痛みと誤認することもある。また、実際に「頬骨が痛い」と表現した患者もいた)
Deep layer;耳deep into the earと顎関節領域に関連痛、
頬部のdiffuseな痛みとして感じられることもある
Entrapment buccal nerve(この項目は本で確認すること)
●Chapter 9 Temporalis Muscle

上顎歯全てと上部顔面痛
temporalisに起因するTTHは頻度が高い
TPI時には、temporal arteryに注意
(すべてのTPIに共通する注意事項であるが、必ず吸引して血管を穿刺していないことを確認してから薬液を注入すること)
●Chapter 10 Medial (Internal) Pterygoid Muscle

咽頭と下顎後方部に関連痛
歯にはreferしない
stuffiness of the earが発現することがある
●Chapter 11 Lateral (Enternal) Pterygoid Muscle

上頭は単なるstabilizerで、下顎を前突させるのは下頭のみ。
Sinusと顎関節領域deep into the TMJに関連痛を生じる
この筋が短縮した場合には急性の咬合不調和が生じる。
めったにspasmを生じない
●Chapter 12 Digastric Muscle

anterior bellyは三叉神経、posterior bellyは顔面神経支配
anterior belly upper part of SCMにreferする
(pseudo-SCM painとして自覚される)
posterior belly 下顎切歯に関連痛を生じる
●Chapter 15 Splenius Capitis and Splenius Cervicis Muscles

●Chapter 16 Posterior Cervical Muscles (& Chapter 17 Suboccipital Muscles)

この部では神経のentrapmentが生じやすいため、
解剖をよく頭に入れておく必要があります。
非常に重要なchapterと考えてください。
<解剖>
頸部~上胸部に2つの神経叢がある。
第1~第4頚神経の前枝からなる頚神経叢cervical plexusと、
第5頚神経~第1胸神経の前枝が作る腕神経叢brachial plexusである。
頚神経の後枝は神経叢とは別に、
後頭部~項部および上背部の皮膚知覚に関係する
大後頭神経great occipital nerve、
第3後頭神経third occipital nerveなどの
知覚神経と、
一部の筋に関係する運動枝よりなる。
(「臨床医のための神経機能解剖学(中外医学社)」p160-161から引用)”
Entrapmentを生じやすい神経
OFP専門医が知っている必要があるのは以下の2つの神経です。
* Great occipital nerve(大後頭神経)
Keyword: C2 neuralgia
第二頚神経posterior primary division of 2nd cervical nerveが
後頸部筋群を貫いて表層に出てくる際にentrapmentが生じ、
神経痛様の疼痛が生じる。
これを俗にC2 neuralgiaと呼び、
TPIの適応とみなされている。
この部の解剖は「TPマニュアル」p297, 308, 313(第2版では、p435,449,456)で勉強するとよいでしょう。
* Brachial plexus(腕神経叢)
Keyword: thoracic outlet syndrome(胸郭出口症候群)
“腕神経は、走行中3か所の狭窄部を通るので、
そのいずれかの部位で圧迫を受けやすい。
原因は種々あるが、
頚肋骨による前・中斜角筋と第1肋骨部での圧迫が有名である。
神経症状には、神経叢下部の第8頚神経、第1胸神経の傷害による症状である。
特に手掌筋なかでも短母指外転筋、母指対立筋に目立つ筋萎縮がおきる。
骨間筋、小指球筋は障害されない。
さらに遅れて、C8,T1領域の痛みや痺れを訴える。
手のチアノーゼ、蒼白なども起きる。
肋骨下動脈、静脈異常がでることがある。
血栓形成も起きる。
(「臨床医のための神経機能解剖学(中外医学社)」p160-161から引用)”
その他、この部にTPIを行うためには、
「TPマニュアル」p316(第2版ではp465)のfig16.8
“cross section of the neck through the C5″に描かれている筋を
表層から順に暗記している必要があります。
The cervical spine

頸椎に関する要点
頭部の回転運動はAtlanto-axial junctionで生じる
C-1 ; The Atlas(環椎)は、vertebral bodyもspinous process(棘突起)も持たない
しかしtransverse process(横突起)は非常に大きく、
下顎角の後方と乳様突起の前方の間から触知できる
C-2 ; The Axis(軸椎) dens (odontoid process)を持つことが特徴
Intervertebral disc(椎間板)
C2-C3間から始まる
脊髄神経もC2-C3間の椎間孔から出て、神経根はさらに前枝と後枝に分かれる
C1-C3の脊髄神経根は脳硬膜dura materに分布
頸神経叢はC1からC4までの前枝と後枝からなっており、CN11とCN12と交通
腕神経叢はC5からT1までの前枝と後枝からなっている
Trigeminocervical Complex 三叉神経頸神経複合体
頭蓋顔面部の疼痛は、
V, VII, IX, X, C1-C3と自律神経からの直接入力や
頸神経からの関連痛で生じうる。
(頸神経からの関連痛に関しては、月刊誌「ザ・クインテッセンス」1999年11月号のDr. Grossのpaperを参照してください。)
Cervical Musculature

OFP専門医は、以下の筋や神経・血管の部位と機能について知っている必要があります
(Travelの「トリガーポイントマニュアル」を参照)。

*Trapezius
片側の収縮で、頭部は後屈、また反対側へ回転する
*SCM
片側の収縮で頭部は反対側へ回転しながら同側へ屈曲
両側の収縮 頭部が前突し、後屈する
Sternal head(胸骨頭/ superior)
Clavicular head(鎖骨頭)
*後頸部筋群
Trap(僧帽筋)
Splenius captius(板状筋)
Semispinals capitus(半棘筋)
* 後頸部筋群(深部)suboccital triangle
* Prevertebral muscle 頸椎椎体前方にある筋群
Longus colli 頸長筋
Longus capitus頭長筋
Lateral prevertebral muscle
Scalenes (anterior, middle, posterior)斜角筋 神経の巻き込み(entrapment)を起こす主要な筋
Levator scapulae肩甲挙筋
椎骨動脈vertebral artery
鎖骨下動脈の最初の分枝。前斜角筋の後方を通り、C7の突起まで横走し、そしてC6からC2まで頸椎の横突孔を順次貫いて上行し、環椎の後輪から出てくる
経路が曲がりくねっているため、障害を受けやすい
後頭動脈 occipital artery
大後頭神経 greater occipital nerve;第二頸神経
entrapmentを起こしやすい
Thoracic outlet

外側が斜角筋、上方が鎖骨、下方が第一肋骨で囲まれた開口部。
この開口部を上腕神経叢、鎖骨下動静脈が通過している)
Thoracic outlet syndrome
20~40才の女性に多い。
上腕神経叢、鎖骨下動静脈の圧迫により、
頭蓋顔面痛、めまい、視野のゆがみ、呼吸困難、嚥下困難などの症状が生じる
The Adson’s testを行って鎖骨下動脈の圧迫を確認する
患者の上肢を床と平行に挙げ、
頭部を健側contralateral sideへ回転させる。
次に10~15秒間息を吸わせてから、
橈骨動脈の脈を測定しながら、
頭部を患側へ回転させる。
Radiusの脈が減少あるいは消えたり、
症状が再現される場合は
positiveであると判定する。
練習問題

(1999, AAOP sylabas, “Board Style Examination”より引用)

29) Abnormal craniovertebral postures, resultingfrom muscle guarding, may occur in conjunction with craniofacial pain. Which of the following muscle is responsible for a right side bent and left lotated head position?
A. The left upper trapezius
B. The right temporalis
C. The left scalenes
D. The right sternocleidmastoid
30) Hyperactivity of the upper trapezius and SCM muscles can cause refferral to the craniofacial region. What common innervation do these important muscles share?
A. C5 root and trigeminal
B. C4 root and Spinal Accessory
C. C3 root and Vagus
D. C3 root and Spinal Accessory
31)
The most important area of neural interplay relative to craniofacial pain is known as the?
A. Cervical plexus
B. Brachial plexus
C. Supraclavicular fossa
D. Trigemino-cervical complex
32)
Hyperactivity and/or trigger points of all of the followoing muscles except one can give rise to vertex or frontal headaches?
A. Longus Colli
B. Splenius capitus
C. Occipito-frontalis
D. SCM
正解と解説
29)正解 D. Sternocleidomastoid.
頭部を右側へ屈曲させ、左へ回転させるのは、右側のSCMの収縮。
The SCM moves the head in a side bending and rotational manner. Think about the posture of a patient with torticolis. The SCM attaches to the mastoid process were it can move the head. The scalenes attach to the transverse processes of the cervical vertebrae and stabilize the cervical spine against lateral movements and are secondary muscles of respiration. The elevate the first and second ribm during inspiration. Scalenes do not move the head.
30)AAOPの先生方の中でも意見が分かれるようです。重要なのは、頸神経の筋への支配をある程度理解しておくことです。解答を参照してください。

解答1)Hyperactivity is due to motor function not sensory function so B is not
correct and D is the only answer.
解答2)Both B and D are correct.
I do not think this is a good question because the trapezius can actually
receive innervation from both C2and C4 as well as spinal accessory.

*Trapezius innervation is provided by the spinal accessory, cranial nerve XI, which supplies maianly motor fibers, and by the 2nd to 4th cervical spinal nerves, which supply mainly sensory fibers to the muscles.
31) 正解 D
32) 正解 A.
各筋のrefered pain発現部位は、以下のとおり。
A) Longus Colli(頸長筋)
The longis coli muscle is on the anterior surface of the vertebral column between the atlas and the third thoracic vertebra. There is a superior oblique and inferior oblique portion and a vertical portion. It flexes the neck and performs slight rotation of the head. A TP in this muscle can refer to the vertex of the head, but does not cause frontal headache.
B) Splenius capitus(板状筋)頭頂部
C) Occipito-frontalis (「TPマニュアル」Chap14参照)
“Referred pain from TPs in the frontalis belly of the occipitofrontalis muscle projects locally over the forehead. Pain from TPs in the occipitalis belly is projected to the back of the head and through the cranium to the back of the orbit (“behind the eye”)”
D)胸鎖乳突筋(SCM) 前述
提供:清水市立病院口腔外科・井川雅子 頭痛大学掲載 改定:03/08/14