一次性頭痛-群発頭痛

 群発頭痛 cluster headache

群発頭痛は、海綿静脈洞(内頸動脈の眼窩の後ろに当たる部分)が、神経原性の炎症で一時的に腫れ上がるために生じる神経血管性頭痛です。このため、眼窩部から上顎大臼歯部・側頭部にかけて激烈な疼痛が生じます。最大の特徴として周期性があげられ、おおよそ1~2年間の周期で、毎日頭痛発作が繰り返し起こる群発期と、寛解期(痛みがない期間)が交互にやってきます。「群発」という名のとおり、群発期には、疼痛発作が毎日群発性に生じます。1ヶ月以上の寛解期があるものを反復性群発頭痛、寛解期がないかあっても1ヶ月未満の場合を慢性群発頭痛と呼びます。
(1日中痛みが続くのであれば、群発頭痛ではありません。)

ICHD-3βの診断基準

A.B〜D を満たす発作が5 回以上ある

B.未治療の場合,重度〜きわめて重度の一側の痛みが眼窩部,眼窩上部または側頭部のいずれか1 つ以上の部位に15〜180 分間持続する

C.以下の1 項目以上を認める

  1. 頭痛と同側に少なくとも以下の症状あるいは徴候の1 項目を伴う

      a) 結膜充血または流涙(あるいはその両方)

      b) 鼻閉または鼻漏(あるいはその両方)

      c) 眼瞼浮腫

      d) 前額部および顔面の発汗

      e) 前額部および顔面の紅潮

      f) 耳閉感

      g) 縮瞳または眼瞼下垂(あるいはその両方)

  1. 落ち着きのない,あるいは興奮した様子

D.発作時期の半分以上においては,発作の頻度は1 回/2 日〜8 回/日である

E.ほかに最適なICHD-3 の診断がない

 

臨床的特徴

1. 痛みの部位(location)眼窩を中心に側頭部、上顎大臼歯部
2. 痛みの性状(quality)”Boring”(目をえぐられるような)とか”hot poker in the eye”(目の中に焼け火箸をつっこまれるような)と表現される。拍動性であることはまれ。
3. 強さ(intensity)転げまわるような激痛
4. 持続時間(duration)15-180分
5. 頻度(frequency)
1. 周期的で、約1年に1度群発期間が巡ってきて、これは約1か月持続する。
2. この間1回/2日~8回/日の発作が生じる。
3. 発作は毎日決まった時間に生じることが多い。
4. しかし、3.1.3 慢性群発頭痛もある。この場合は、痛みの部位と性状で診断する。
6. 誘発因子:飲酒で(「ビールをほんの少し」でも)発作が必発
7. 発作中の行動  激痛で、「ころげまわる」「のたうちまわる」。英語では「pacing(うろうろ歩き回る)」と表現する。日本人では、逆に「痛みのあまり、じっとうずくまって動けない」という人も多い。
8. その他の重要な特徴
*痛い側に、目の充血、涙がでる、鼻が詰まる、鼻水が出る、まぶたが垂れ下がる、などの自律神経反応を伴う
*睡眠中に疼痛発作で覚醒する(「痛くて眠れない」のではなく、「眠っているのに、痛みで飛び起きる」のが群発頭痛の痛み。)

 

●メモ
· 群発頭痛は、眼窩部から上顎大臼歯部にかけて痛みが生ずることが多く、患者の53%が歯痛を訴えるという報告があります。
· 実際、患者の多くが歯科医院を受診し、中には抜髄、抜歯などの不必要な処置を受けているケースがみられます。
·
罹患率は、人口の0.04~1.5%という報告があり、稀ではありません。 
·
性別では、圧倒的に男性に多く、男女比は4.5 : 1~6.7 : 1 です。
· 歯科医師が、必ず知っていなければならない頭痛です。

歯科を受診した群発頭痛の2例


· 症例1:39才、男性。

主訴;「頭痛に伴って生じる左側上顎大臼歯部の歯痛」
現病歴;10年前、4年前に1ヶ月ほど持続する頭痛とこれに随伴して起こる歯痛を経験し、両期間とも某総合病院脳外科で投薬を、歯科で歯科治療を受けました。本人は「薬はあまり効かなかったが、歯科治療をしたら頭痛がよくなった」という印象を持っていました。

1998年4月初旬から左側頭部に発作性の頭痛が出現。疼痛は激烈で、1日5回、うち2回は、夜間睡眠中、明け方に生じ、1時間ほど持続した後に寛解しました。

4月10日:前脳外科を受診、片頭痛と診断され、カフェルゴットと鎮痛薬の投薬を受けましたがほとんど効果がなく、毎日繰り返し襲う激しい頭痛発作のために仕事を辞めざるを得なくなりました。頭痛発作中には、歯も激しく痛むため、自分で歯が原因ではないかと考え当科を受診しました。問診中に頭痛発作が生じたため、容易に群発頭痛と診断できました。


· 症例2:47才男性。

主訴:眼窩部から右上顎大臼歯部にかけての疼痛。現病歴;1998年9月初旬より上記主訴が出現しました。

9月14日、歯科医院を受診しましたが、歯科的原因が認められないため、9月16日、当科を紹介受診し、群発頭痛と診断されました。患者は「頭痛や目の痛みではなくあくまで歯痛である」と認識していました。

●<薬物療法>

ワソラン®による予防療法と、トリプタン系薬剤や純酸素による頓挫療法を組み合わせて治療するのが基本。

予防療法

· ベラパミル(ワソラン®)
· 炭酸リチウム
· ステロイド
· バルプロ酸ナトリウム(デパケン®)

頓挫療法
·  トリプタン(イミグラン点鼻®)
·  酒石酸エルゴタミン(カフェルゴット®)
·  純酸素(100%酸素)

頓挫療法には、トリプタン類の使用(経鼻、または皮下注)か、純酸素の吸入が有効。群発頭痛の発作は、1時間あまりで消失するため、経口薬では血中濃度が上がるまでに時間がかかりすぎ、「間に合わない」ことが多い。酸素吸入は、効果が高く、副作用がほとんどない。マスクをつけて100%酸素を7L/分で15分吸入する。7-8割の患者で著効する。これだけの大量の酸素を吸入するためには、病院に行くか、医師の処方した酸素ボンベを持ち歩くしかない。(スポーツ店で売っているリフレッシュ用酸素は、ほとんど意味がありません。)

詳細は、日本神経学会治療ガイドラインの「頭痛治療ガイドライン」を参照。
http://www.neurology-jp.org/guideline/headache/

 

· A. B~Dを満たす発作が5回以上ある
· B. 未治療で一側性の重度~極めて重度の頭痛が、眼窩部、眼窩上部または側頭部のいずれか1つ以上の部位に、15~180分間持続する
· C. 頭痛と同側に少なくとも以下の1項目を伴う
o 1. 結膜充血または流涙 (あるいはその両方)
o 2. 鼻閉または鼻漏 (あるいはその両方)
o 3. 眼瞼浮腫 o 4. 前頭部および顔面の発汗
o 5. 縮瞳または眼瞼下垂 (あるいはその両方)
o 6. 落ち着きがない、あるいは興奮した様子
· D. 発作頻度は1回/2日~8回/日である
· E. その他の疾患によらない

3.1.1 反復性群発頭痛

· A. 3.1「群発頭痛」の診断基準A~Eを満たす発作がある
· B. 7~365日間続く群発期が、1ヵ月以上の寛解期をはさんで2回以上ある


歯科臨床に必要な群発頭痛の知識

· 以下は、静岡県歯科医師会報6月号に掲載された清水市立病院口腔外科の池内忍・井川雅子の記事の改訂原稿です。

· 五十嵐先生の報告やアメリカのpaperで「CH(群発頭痛)が歯科で誤診され、 その結果どのような不必要な治療を受けたか」の表を掲載しております。


 はじめに

· 群発頭痛は片頭痛、緊張型頭痛とともに機能性頭痛に分類される頭痛疾患で、激烈な疼痛を特徴とします。
· 「頭痛」でありながら、症状は「頭が痛い」ではなく、「眼窩から上顎大臼歯部にかけての激痛」と自覚されるため、患者が歯科を受診する事が多いことが頭痛専門医の間で知られています。
· 群発頭痛は、歯痛と鑑別しなければならない疾患であるにもかかわらず過去に歯学部の教育で取り上げられることのなかった疾患で、歯科医師の盲点となっていました。
· しかし、近年の口腔顔面痛の知識の普及とともに、その疾患概念の啓蒙を行うことが急務と考えられるようになってきました。


 

高い誤診率

· 群発頭痛は、致命的な疾患ではないことなどが災いして、歯科医師のみならず医師の認知度も低く、適切な診断が行えるのは内科医で20%、脳外科医で50%と推定されており、片頭痛や歯痛、三叉神経痛と誤診される例が少なくありません。

· 誤診率については、北里大学内科五十嵐らが、同科を訪れた群発頭痛患者が、 正しい診断を受けるまでにいかなる医療機関を受診し、どのような診断を受けたかを検討していますので、 その結果を簡単に紹介します(表2参照)。

· 群発頭痛と正しく診断されたのは · 群発頭痛の痛みは、目から上顎大臼歯部にかけて発生するため、患者自身も歯や目の痛み、などと勘違いすることが多いようです。

· とはいっても、群発頭痛は前述のように、際だった臨床的特徴を持つため、診断基準さえ知っていれば頭痛の中で最も診断が容易とも言われています。

· また、米国口腔顔面痛学会(AAOP)のGraff-Radfordらが行った33例の群発頭痛患者のうち、歯科を受診した14例が受けた治療例を表3に示します。

· 群発頭痛は「非歯原性歯痛Non-odontogenic Toothache」を引き起こす代表的な疾患であるにもかかわらず、歯科医師の認知度が低いために、不可逆的な治療が行われた例が少なくないことに注目する必要があります。

· 調査の結果、ほとんどの歯科医師は群発頭痛についての知識がないことが判明しています。群発頭痛の疼痛は、歯痛や目の痛みとして自覚されることが多いため、患者が適切な診療科を受診するとは限りません。

· また、患者が歯科を受診した場合には、群発期間が終了するまで治療を継続して行うことが多いため、歯科医師・患者ともに歯科治療が有効であったという間違った認識を持つことが多いようです。

· このため、症例1、3の患者のように群発期間の度に歯科を受診するという患者も少なくありません。


 おわりに

· 本稿では口腔顔面痛を引き起こしうる多くの疾患の中でも、最も頻度が高い群発頭痛について述べました。

· 現在群発頭痛は頭痛専門医の間で「歯科医師によって誤った治療をされる可能性のある疾患」として知られています。

· しかしながら我々が群発頭痛の知識、鑑別診断能力を身につけることによって、今後は米国口腔顔面痛学会(AAOP)会長Dr. Gary Heirが言うように「歯科で診断される頭痛(Headache Diagnosed by Dentists)」となりうる可能性もあります。

· 医科領域の疾患の中には、90例中8例でした。この群発頭痛のように「歯や顎の関節部の痛み」を引き起こしうるものが少なくありません。

· このため、歯痛や顎関節症と、その他の口腔顔面痛を引き起こしうる疾患を鑑別する必要性から、近年米国口腔顔面痛学会(AAOP)を中心として、歯科の新しい一分野として世界的な規模で「口腔顔面痛学Orofacial Pain」という領域が確立しつつあります。

· 群発頭痛に限らずOrofacial Pain 一般に関する知識を持つことは、歯科医師として臨床にたずさわる我々の責務といえましょう。

· 表2 

·群発頭痛患者の受診歴の検討(宮内庁病院・五十嵐久佳:北里大・坂井文彦)

· 過去に受診した医療機関(n=108)
o 総合病院     49例
o 内科診療所   25例
o 脳神経外科   19例
o 眼科         19例
o 耳鼻咽喉科   12例
o 歯科・口腔外科 12例
o 精神神経科    2例
o 小児科        2例
o 整形外科      1例
o なし          18例

· 過去に受けた診断名(n=90)
o 三叉神経痛       13例
o 片頭痛          13例
o 精神的なもの       4例
o 齲歯・智歯         4例
o 血管性頭痛        3例
o 緊張型頭痛        3例
o 目の疲れ・調節障害  3例
o 副鼻腔炎疑い      2例
o 脳動脈瘤疑い      1例
o 自律神経失調症     1例
o 風邪              1例
o 頬部の炎症        1例
o アレルギー性鼻炎    1例
o 群発頭痛          8例
o 診断名告げられず  3 6例

 

· 表3
33例の群発頭痛患者のうち、歯科を受診した14例が受けた治療例

症例番号 受診歯科医師数        治療内容
3              1                 スプリント
8               3                 スプリント3個、咬合調整、抜歯
11              1                 治療なし
15              3          根管治療、歯根端切除術、咬合調整
16        2          根管治療2歯、抜歯、NSAIDs
17        2          理学療法
18        3          スプリント、精神安定剤(ジアゼパム)、NSAIDs
19        1          治療なし
20        1          メチセルジャイド
21        1                スプリント、抜歯2歯
26        1          抗生物質、鎮痛剤
30        2          スプリント、鎮痛剤
32        1          智歯抜歯
33        2          スプリント、咬合調整