口腔顔面痛(診断と疾患)
口腔顔面痛とは?
口腔顔面痛とは特定の疾患の名称ではなく、文字通り口腔と顔面部に発現する疼痛(症状)をいいます。 ある報告によれば人口の22%は過去6か月以内に口腔顔面痛を経験しているとのことですから、その患者数が膨大であることは想像に難くありません。 この数字のうちの半数は歯痛ですが、残りは顎関節症やある種の頭痛、他の医科的疾患に起因する疼痛です。 顔面という狭い領域に発現する痛みの中には、痛みの部位が特定しにくいものも多く、歯科医は歯痛や顎関節症と誤診しやすく、患者さんにおいては不必要・不適切な治療を受けるといったケースも少なくありません。 このような混乱を避けるために、歯科の新分野として、原因不明の口腔顔面部の痛みに苦しむ患者さん診断と治療を行う口腔顔面痛学が、1990年代後半から米国口腔顔面痛学会(AAOP:American Academy of Orofacial Pain)を中心に急速に世界の歯科医学界に普及しつつあります。 ちなみに”口腔顔面痛”は英語のOrofacial Painの邦訳で、文字通り口腔と顔面部に発現する疼痛(症状)をさします。 (Orofacialとは、oral(口)とfacial(顔)を組み合わせた造語です。) また、口腔顔面痛学そのものもOrofacial Painと呼ばれています。
口腔顔面付近の疼痛の分類図式 ( pdf 17K)
顎関節症と口腔顔面痛の関係
最近では、顎関節症は、口腔顔面痛学の一項目(しかし最重要項目)として扱われるようになってきました。
口腔顔面痛学とはなにか
TMDをその他の疾患から鑑別する必要性から生まれた歯科の新しい領域
口腔外の諸組織を扱う歯科における初めての分野
総論で痛みのメカニズム
各論で鑑別診断と治療 を学ぶ
われわれ歯科医師は、歯や歯肉、舌をはじめとする口腔内の疾患、顎関節症(顎関節と咀嚼筋の障害)、口腔顔面部の腫瘍に関する教育は受けているが、こと「顔面痛」に関してはほとんど知識がないというのが正直なところである。このためこのような「非定形顔面痛」患者が受診した場合、(消去法の結果)歯科の中で唯一口腔外の諸組織を専門とする顎関節症専門医が担当せざるを得ないことになる。
顎関節症専門医は、顎関節症に関してはかなりの知識があり、治療もそれなりに高いレベルで行うことができる。しかしながら、(現在では信じがたいことだが)「これが顎関節症か否か」という鑑別診断については、それほど多くの知識を持っていなかった。
そのため、「顎関節症にしてはちょっとヘンだ」と思いながらも強引に顎関節症と診断して治療を行ったり、「顎関節症ではない?」と診断しながらも、咬合治療でなんでも治るという信念から、確信犯的に咬合治療を行ってきた歯科医師もいた。
診断が間違っていれば、治療が奏功しないのは当然である。
難治性のTMDの症例を集めて分析してみたら、その多くが「そもそもTMDではなかった」という本末転倒な結論に至ったという報告もある。顎関節症専門医の弱点は、治療以前の問題である「顎関節症かどうかの鑑別診断」にあったということである。
このような経緯から、1990年代に入り、米国の顎関節症専門学会を中心に「Orofacial Pain(oralとfacialを組み合わせた造語)=口腔顔面痛(学)」が発展してきた。口腔顔面痛学は、TMDを、口腔顔面痛を引き起こしうるその他の疾患と鑑別する必要性から発展した「歯科医学において、口腔外の諸組織を取り扱う最初の学問領域」であり、現在では体系化された歯科の新分野として、American Academy of Orofacial Pain(米国口腔顔面痛学会)を中心に、急速に世界中の歯科大学に普及しつつある。
口腔顔面痛学は第一に診断学であり、もっとも重要な任務は、バスケットネームである「非定形顔面痛」に正確な診断をくだすことである。口腔顔面痛で扱う疾患の多くは、1988年にInternational Headache Society(国際頭痛学会)が発表した「頭痛、頭蓋神経痛、顔面痛の分類及び診断基準」に分類されるものが多いため、口腔顔面痛専門医はこの分類に精通していることが要求される。口腔顔面痛専門医が扱う代表的な疾患は、体性痛・神経因性疼痛・心因性疼痛と疼痛のすべての分野にわたる。具体的には、いわゆる顔面片頭痛、群発頭痛、筋筋膜痛とその関連痛、側頭動脈炎、発作性神経痛(三叉神経痛・舌咽神経痛)、持続性神経痛(求心路遮断性疼痛・交感神経維持性疼痛)、上顎洞炎(高率に歯痛・顔面痛を引き起こす)、ジストニー、身体表現性障害(特に疼痛性障害が多い)などである。